なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『カルロス』

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau


49年南米ベネズエラ生まれの稀代のテロリスト・カルロスの半生を描いた映画。

『夏時間の庭』や『クリーン』、SONIC YOUTHのメンバーらのライヴを収めた映画『ノイズ』で知られる
55年パリ生まれのオリヴィエ・アサイヤス監督の2010年の作品である。
主演は『チェ 28歳の革命』にも出演したエドガー・ラミレス。
7か国以上の言語が用いられた原語によるセリフの徹底と10か国で行われたロケ撮影も奏功し、
リアリズムに裏打ちされたスケールの大きい作品に仕上がっている。
3部構成でトータル上映時間5時間30分の大作だが、
必然的に政治と密着した作品にもかかわらず淡いタッチで風通しがよく
“人間・カルロス”に喜怒哀楽の複雑な感情を覚えながら一気にイケる甘くて苦い映画だ。

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Carole Bethuel

史実や報道に基づいて作りつつ、
カルロス周辺が“謎”に満ちているため想像にまかせたフィクションの部分も含まれているが、
その“謎”を肥大化させた妄想を昇華したことで独自のカルロス解釈の作品になっている。

生い立ちなどにはあまり触れずテロリスト・カルロスの20年間に絞っている。
第1部はPFLP(パレスチナ解放人民戦線)に深く関わるようになった73年の夏から、
OPEC(石油輸出国機構)の総会に照準を合わせた75年12月までの上り詰めるまでのカルロス。
第2部は同志たちとOPEC総会を襲撃してアラブ諸国の代表団を人質にとって飛行機で誘拐し、
最初の妻となるドイツの組織RZ(革命細胞)の女性のコップと出会う75年12月から78年までで、
世界にカルロスの名を知らしめた時期。
第3部は家庭を持って新たな同志も得て新展開を試みつつ世界情勢の激変に伴って居場所が転々とし、
テロリストとしてもプライヴェイトでも迷走する79~94年+αである。

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau

ヴォリュームたっぷり盛りだくさんの内容である。
欧州や中東、北アフリカの諸国の人物や組織とのやり取りが中心だが、
70年代のシーンでは当時パレスチナ解放闘争においてカルロスと“共闘”した日本赤軍も登場する。
いかにカルロスが様々な地と接触を持ってきたかを表しているし、
監督も可能な限りそのすべての網羅を試みたように見える。
そのため具が詰まっていてシーンが舞台となる国の転換が多いあたりでは雑然とした印象も受けるが、
日にちや場所を示すテロップが逐一スクリーンに出るからあまり“迷子”にはならないし、
代表的なトピックだけを抽出してまとめる“見栄えのいい合理主義”の作りにはしたくなかったのだろう。
めまぐるしく移り変わって混沌とした状況を反映したカットアップ的な構成も見られるし、
唐突な場面転換は基本的に予告無しで行なわれるテロ行為のタイム感覚の映像化とも言える。
むろん第2部のメインのOPEC総会をのっとった数日間をはじめとして大切な場面には時間を割き、
見る者をじっくりとファックしていく。

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau

世界同時革命を目指して様々な国と関わっていったカルロスだが、
複雑怪奇な世界の政治システムの荒波を泳ぎ切れずに
ミイラ取りがミイラになっていく過程を見ている気分にもなった。
既成の権威と同じくカルロスも金と権力欲に溺れたことが一因とも感じ取れる。
昨日の敵は今日の友であり昨日の友は今日の敵というわけで
奇々怪々な国際社会を利用しながらも逆に翻弄され、
故サダム・フセインやリビアの故カダフィ大佐に一目置かれつつ目を付けられる。
そのイラクやリビアをはじめとして、
シリアやスーダンなど特に2000年代以降血で血を洗う状況の地と関係を持っていたことも特筆したい。

監督はカルロスという人物に深い関心を抱きつつ、
テロリズムに対しては冷ややかな視線を送っているように思える。
ナチスのホロコーストが頭をよぎって「シオニズムは嫌いだがユダヤ人が嫌いなわけではない」と言い、
「人の命を軽く見ている」カルロスとは一定の距離を置くドイツの“同志”の男性の言葉も象徴的。
やはり“同志”でスペイン政府との闘争を続ける極左組織・ETA(バスク祖国と自由)の男性は、
自治が得られて喜んでいる人々に対して「だまされている。我々は独立を目指す」とのたまう。
“人民のために”という言葉がすべて自分のエゴの言い訳になっている。
そんな中でも女友達が言ったように「革命用語をもてあそび」何かといえば大義名分を言い訳にする
カルロスは特に“重症”である。

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau

興味深いのは、
カルロスをはじめとしてテロリストたちの多くに切迫感や危機感があまり感じられないことだ。
カルロスに対する監督の“解釈”基づいて意識的にその方向で“プロデュース”したようにも見える。

特にカルロスは“リア充”で帝国主義/資本主義への憎悪やパレスチナへの憂慮の念が見えてこないし、
こんなライフスタイルや独善的な物の考え方で人民の気持ちがわかるとは思えない。
日々の生活に追われている人の方がよっぽど危機感がある。
カリスマ性が増すにつれて理想と目的がぼやけて横暴になっていくカルロス。
「今やビッグ・スター。闘っているのは革命の大義ではなく自分のため」と
とある“同志”が映画中でカルロスを断罪した言葉が言い得て妙である。

裏切り者は徹底的に即刻消す反面、
駆け引きで動く二枚舌で意外と八方美人。
交渉による“利益”に味を占めてからは年を追うにつれて金にこだわりを見せていく。
自分の手を汚して殺害もするとはいえカルロスは“兵士”じゃない。
テロリストの仮面をかぶった“政治家”だ。
中途半端さゆえに下部からも上層部からも非難されて組織の離反と再編を繰り返すのも一例である。
そういった点も含めて、
“盲信”に殉ずる戦士とは違って御託をさんざん並べて殺しておきながら実はブレの多い
“革命病の人間・カルロス”がそのまま描かれている。
なんだかんだ言っても自分の命が惜しいと読める場面が何度も登場するが、
逆に言えば情けない人間味が滲む一人の男の姿も暴いているのだ。

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©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau

世界的な有名人になっていくにつれてカルロスの放蕩ぶりも目立ってくる。
革命がなかなか成就しないことに対する“いらだち”ではなく、
“欲しいもの”を次々と手にしていくうちに肥大していった慢心ゆえの行為だろう。
現代の“南米のお騒がせ男”であるベネズエラの“後輩”チャベス大統領の何倍も奔放だ。
むろんテロリストや活動家だって必ずしもストイックである必要はないわけだが、
“女にもてるんだからしょうがないだろ? 文句あるなら出てけ!”みたいな妻に対しての尊大な態度は
テロリストのリーダーを務める時の姿と同じカルロスの気質である。
とはいえ見せ場の一つが濡れ場だったりもするわけで、
カルロスがセルジュ・ゲンスブール級の暴力性を秘めた官能的な男だったことを描いている点も
この映画のポイントなのだ。
たびたび挿入されるエロチックなシーンが実に生き生きしているし、
この映画の中で一番生々しい。

対照的にテロの現場は淡泊にも思えてくる。
むろん殺害シーンも適宜盛り込まれているし、
その時々のドキュメンタリー・フィルムも随時織り込んで映画とオーヴァーラップさせている。
ただ無差別大量殺人よりは銃による少数ずつの殺害を何度も行なうテロが多かったとはいえ、
殺害者83人で負傷者100人以上の事件に関与したとされるカルロスのテロの残虐性は強調されてない。
意識的に血なまぐささを抑えて惨状を売りにしないようとしたかのようにも映るほどである。
だがそういう軽さが逆に「人の命を軽く見ている」と同志が突き上げたカルロスの非情さを醸し出しているし、
関わったとされながら罪を問われていない事件が多数のカルロスならではの
スマートな“手口”であり“罠”であり“才能”にも見えてくる。

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ときおり入る音楽もテロの重苦しさを中和する。
むろん絶対的な緊迫場面は音楽は入れず全体的には少なめで民俗音楽も用いられているが、
パンク/ニューウェイヴ~ポスト・パンク~オルタナティヴ・ロック系の音楽が唐突に流される。
ロバート・フリップ(KING CRIMSON)とブライアン・イーノのユニットのFripp & Eno、
FEELIES、NEW ORDER、A CERTAIN RATIOなど監督の一貫した音楽趣味も透けて見えるが、
中でもポスト・パンク・バンドのWIREを重用して4曲も使っているのが面白い。
どの曲も場の空気をポップにクールダウンさせている。
そして第2部ではちょうど映画の場面の時代にリリースされた曲だからか
DEAD BOYSの必殺パンク・チューン「Sonic Reducer」がカー・ラジオから突然飛び出してきて、
いきなりノリノリ気分へと煽る。
そんな感じでカルロス自身がしでかしてきた事件と同じく見る者を翻弄させもする。

それにしてもカルロス役の男優、
実際のカルロスも“こういう男!”だと先入観を植えつけて思い込ませてしまうほどの堂々たる演技だ。
ふてぶてしいにも程がある。
シャープな戦士から、
見るからに満ち足りたメタボなオッサンに堕ちるまでの人生を全身で表現していて見事である。
適宜“肉体改造”も行なったそうで顔つきと体型の変化にも気合が入っている。
計120人以上の他の俳優たちも役に入り込んでいる迫真ぶりだ。
多彩な女性陣も刺激がいっぱいだし、
けなげでセクシャルなカルロスの最初の妻の演技は特にこの映画の艶めかしい潤滑油のひとつである。

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© Jean-Claude Moireau / FILM EN STOCK / CANAL+

女と銃とウィスキーとタバコを愛したカルロス。
お金も愛していたように見えるが、
結局“革命”も愛していたのだろうか。
それが“迷宮入り”のまま終身刑を生きるかのようなモヤモヤ感は、
フランス出身の監督ならではの甘美な匂いの中で陽炎のように漂うカルロスの残り香かもしれない。


★映画『カルロス』
フランス、ドイツ/2010年/カラー/スコープ/第1部101分、第2部107分、第3部118分
9月1日(土)より、5週間限定 渋谷シアター・イメージフォーラム、吉祥寺バウスシアターにて公開。
他、全国順次公開。
色々な見方ができる映画だから政治的に疎い方でも楽しめると思うが、
なんとなくでも予備知識が多少あると入っていきやすいだろう。
というわけで、お得な“3部作セット券+劇場用パンフレットセット”の前売りをオススメ。
その劇場用パンフレットだが、
薄手のパンフレットではなくミュージック・マガジン誌サイズの96ページの“冊子(not小冊子)”で、
わかりやすく政治状況も綴られた濃密な内容だから事前に政治的背景などを知っておくのにも最適だ。
http://www.carlos-movie.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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