なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ひとつの歌』

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77年東京生まれで杉田協士監督の長編デビュー作。
自身で脚本も書いている。

淡く不思議な映画である。
主人公の剛役は『四谷怪談』『宮本武蔵』などの舞台で活躍している金子岳憲。
準主人公の桐子役は映画『森崎書店の日々』やスピッツのPV「つぐみ」などに出演している石坂友里。
映画の流れを決定づけているのはその二人だけと言える。
映画の空気感を演出する人物は他にも登場するが、
ほぼ匿名。
いやぼくには主人公でさえ“匿名”に映った。

主人公・剛の素性があまり明らかにされない。
生活や人生が見えてこない。
彼に関してはっきりしているのは、
私鉄の西武線とJR中央線の電車と実務的な単車を移動手段として使い、
植木職人(の見習)をしながらポラロイド・カメラで“街撮り”をするぐらいだ。
主な行動範囲は東京の東村山と吉祥寺、東横線の学芸大学駅周辺、埼玉県の飯能である。
だが彼の現在過去未来はほとんどシークレットだ。

サブ2

ぼくはプレス用の資料をあまり読まないで試写会に臨むが、
スクリーンで見た後ここに語れるほど物語を把握できなかった。
雑然としたイメージが残ったのである。
主人公・剛は変態キャラではなくシャイで朴訥な好青年として描かれているが、
<剛がストーカーで街の小さな写真店勤務と思しき桐子に接近して“写真”を接点に口説いた>
ように見えた。

でも本作のオフィシャル・サイトにも書かれている監督が設定したストーリーはちょっと違う。
そもそもぼくは映画のカギを握る最初の方の“とある人物の人身事故”にも気づかなかった。
生々しいイメージを避けたみたいで、
主人公・剛と桐子が関係を深めていく流れのクールな描き方にも通じる。
人身事故の現場に居合わせたらしい剛が常時ほとんど表情を変えないも大きい。
剛は感情を押し殺す性格の役柄なのかもしれないが常に何食わぬ顔で行動を移すキャラで、
世の中で何が起ころうが動じないそういった行動様式が本作を支配している。

サブ1

カットアップの手法とも言えるほど別の場面への唐突な転換もいくつか出てくるが、
まるで主人公・剛の“日記”の数ページをピックアップして見せていくかのようだ。
場面場面が有機的につながっているように見えなかったり必然性を感じないシーンもあり、
ところによっては雑然とした流れにも映る。
“形容詞”と“接続詞”があまりない映画だ。
意図したストーリーが伝わりにくいほど“言葉足らず”ならぬ“映像足らず”にも思える。
だがそのほとんどは意識的だろう。

実際セリフは少なく言葉で説明する映画ではないから“散文”ではない。
かといって韻文のようなリズムを内包しているわけでもない。
映画のタイトル『ひとつの歌』が示すようにすべてが歌詞みたいな映画だ。
たいていの歌詞は曖昧模糊としているしセンテンスごとの関係性が見えにくいものも多い。
作詞家が何かのメッセージやストーリーを託していようが、
大半が解釈は受け手自身にゆだねられている。
映画も好き勝手にストーリーを作るのもありなわけで、
“行間”を読むスペースがたくさん用意されている作品である。

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むろん以上のことは“気”や“念”や“意志”が息づく圧倒的な映像力があればどうでもいい話だが、
そういう映画でもない。
叙情的かつ叙景的な映像が穏やかに続く。
実は杉田監督は写真短歌集『歌ロングロングショートソングロング』を出している写真家でもある。
静物画を思わせるstaticな映像や定点カメラのシーンが多いことにもうなずけるし、
そのへんにいる見知らぬ他人を撮影する“街撮り感覚”の映像がポイントだ。
気持ちの針が振り切れているとは言いがたい。
だが振り切れてないどころか針の微動が続くことを強みにしている。
音楽で言えば
アルバムのジャケットが意味深な風景写真のエモ・ロックやポスト・ロックの佇まいである。

でも最後のテロップまで音楽が一切使われない。
音声を加えてドラマチックに盛り上げる気はなく、
あくまでもありのまま日常の延長として鳴っている“すっぴん”の物音と声にまかせている。
それも見る人間のイマジネーションにゆだねるための一要素だろう。
音声がモノラルという点もさらに特筆すべきだろう。
だから音の広がりはないが、
逆にそれが内に向かう色合いを強めている。

その他2縺昴・莉厄シ胆convert_20120924101217

音声がモノラルということでこれはいつの時代を描いた映画なのかもわからなくなってくる。
なにしろ『ひとつの歌』には携帯もツイッターもPCも電子メールも出てこない。
そもそも主人公・剛が手にするのはデジカメではなくなぜポラロイド・カメラなのか。
80年代・・・いや70年代・・・登場人物たちの地味な服装もそれっぽいではないか。
東京近郊が舞台とはいえモダンな都会的風景はほとんど映り込んでないから、
まるで昭和の風情である。

“以心伝心”みたいな映画に命を吹き込んでいる二人の演技力は絶賛すべきだろう。
登場人物全員が寡黙だが、
終盤で桐子が泣くシーンは小津安二郎の映画『東京物語』の原節子を思い出した。

一人一人の“妄想力”が試される“アンビエント・ラヴ”を描くプラトニックな映画である。


★映画『ひとつの歌』
2011年/HDCAM/カラー/スタンダード/モノラル/100分
10月13日(土)から渋谷・ユーロスペースにて3週間限定レイトショー。
www.boid-newcinema.com/hitotsunouta/
(C)2012年 『ひとつの歌』製作委


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コメント

音声がモノラルっていうだけで興味津々です。掴み所がなさそうな所にも多いに惹かれています。全然関係なくて大変申し訳ないのですが、今日未聴だったGBHの「PUNK JUNKIES」を買いました。メタリックな内容は非常に良かったです。この頃も行川さんライナー多いですね。

かくさん、書き込みありがとうございます。
掴み所がなさそう・・・・この映画を上手く言い表していると思います。全体的に音も淡いですが、モノラルにしているというところに音声に対して意識的な映画ということがわかります。
「PUNK JUNKIES」・・・・なつかしいです・・・かなり昔に思えます。

宣伝で恐縮ですが・・・

行川様

こんにちは、唐突に書き込んですみません。

『ひとつの歌』私も見ました。不思議な、難解な映画と思いましたが、行川様の情報量に圧倒されてしまいます。
分かりにくい映画を分かろうと努力するところがおもしろいですね。

この映画を見た方は私に好みが近いのかなと思いお伝えしますが、よろしければ私どもの映画をやるので、暮れの忙しい時期ですが、もしも近くについでのある際にはちょっとよってみてくださいませんか。

お忙しいところ、大変失礼しました。

下北沢トリウッドにて
2012年12月26日~30日 連日 18:50から上映
入場料 ¥500

公式サイト:
http://q-do.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-9113.html

球道さん、書き込みありがとうございます。
わかりにくい映画をわかろうとするのも面白いものですい。この映画の舞台が自分が馴染み深い場所も舞台にしているというのも、なんとか食いついてやりたい気分になりました。映画に限らず既成の見方ではなく色々な見方をしたいものです。
宣伝の映画、了解しました。

行川様

唐突な書き込みにもかかわらず、コメント返信ありがとうございました。
これからも映画を見た際には貴ブログのコメントを参考にしたいと思います。
上映は無事終了しました。次の機会もよろしくお願いします。ありがとうございました。

球道さん、書き込みありがとうございます。
見に行かなくてスイマセン。
色々な方向性のものにチャレンジしたいので、グレイトな映画を御存知でしたらまた教えていただけるとさいわいです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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