なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『僕の中のオトコの娘』

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『失恋殺人』『クレイジズム CRAZY-ISM』で知られる
窪田将治による監督・脚本・編集の2012年の映画。

『僕の中のオトコの娘(こ)』は
いわゆるゲイやオカマではなく男性が女性の格好をする“女装娘(じょそこ)”の物語である。
主演は『獣拳戦隊ゲキレンジャー』をはじめとするテレビ・ドラマや、
『ランデブー!』『BECK』『踊る大捜査線 THE FINAL』などの映画でも活躍中の川野直輝。
“いかにも”の序盤はありきたりにも思えたが、
そいつは“罠”である。
“失敗家族”の再生の物語もさりげなく絡めて
シンプル&ストレートな展開でどんどんどんどん気持ちよくなっていき、
みるみるみるみるうちに目頭が熱くなっていつのまにか感動してしまった。

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川野直輝が演じる足立謙介はサラリーマンだったが、
ありえないほどの単純なミスを繰り返して上司らに蔑まれて居づらくなって退社。
謙介は働かず父親や姉と暮らす家の中に引きこもってネットサーフィンをする日々が続いたが、
まもなく女装娘が自分の画像をupするサイトに行き着いて興味を抱く。
その中でもひときわ目立つカレンとメールのやり取りを始め、
謙介は女装娘が集まる場に出向いて勧められて女装を行ない、
自分の“居場所”に出会った喜びと解放感に浸ってその世界にのめり込んでいく。

女装娘ではないゲイの男性に一目惚れされるなど困惑しながらも謙介の目は輝き気分は高揚するが、
まもなく家族の間で問題が発生。
女装娘のバーの“先輩”から家族に頼っていることなどを指摘されて謙介は自立を決意するも、
結局は家族に迷惑ばかりかけて
何をやっても根がダメ人間であることに変わり無しである自分に気づかされる
姉の幸が薄いのも父が出世しないのも自分のせいだとも思い込まされた謙介は、
“とある決断”をする。

ホントはもっともっともっともっとストーリーを細かく書きたいほど、
一回見ただけで場面場面がしっかりと脳ミソと下半身に焼き付くほどおもしろい。
けどそいつは見てのお楽しみってやつである。

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実はぼくもプライヴェイトな遊びで女装をしたことがある。
正確には“させられた”“してもらった”という感じだが、
どちらかというと女性的な顔立ちだから我ながらけっこうイケるのだ。
いわゆる“ジェンダーの感覚”がなんとなくでもカラダでわかった気になったし、
“性的な種類”のものとは微妙に違うが、
姿見に映った自分を見て体内に電流が走るほどの快感すら覚えたから
この映画の謙介の気持ちもなんとなく共感できる。

サブ2_R

とにかく俳優陣すべてが熱演である。
映画の中の“家族の物語”を支える姉(中村ゆり)と父(ベンガル)は複雑な気持ちを見事に滲ませる。
特に中村ゆりのまっすぐな演技から目が離せない。
ぼくは弟が一人いる兄という“きょうだい”の組み合わせとしては一番楽しくないポジションだが、
こんな姉がいたらそりゃ甘えるわ!と本気でジェラシーを覚えてしまった。
カリスマ女装娘カレン役の草野康太と
女装娘バーのママ役の木下ほうかも強力だし、
謙介に思いを寄せるバーの常連客のサラリーマン役の河合龍之介もゲイの微妙な心理を表している。

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主演の川野直輝はひたむきな演技にヤられた。
元が美少年ということもあって女装するとホントかわいくて麗しい。
同性愛志向でない男性でもウットリすること必至なのだ。
自分が認められて光が見えたときの謙介も、
光が閉ざされたようになったときの謙介も、
どちらも生々しい。
だからぼくは自分の子供のように心配してしまった。
「しっかり!」と心の中で応援しながら見た。

むろん気持ちが“重い”のは謙介だけではない。
たくましくコミカルで元気なニューハーフ+ゲイの同時期公開の日本映画『EDEN』も面白かったが、
『僕の中のオトコの娘(こ)』の女装娘たちは明るく見えて一人一人に深い陰が見える。
歳を重ねて筋金入りのように見える女装娘も、
うしろめたさみたいなものも背負って生きていることが伝わってくる演技である。
だからこそとてもリアルに映るのだ。
“独り”だからこそほんとうの仲間を求め、
みんな寂しそうである同時に
謙介以外の女装娘やゲイの男性にはとてつもなく侠気(≠男気)を感じる。
どの世界でも気合がなければ自分の好きな道を貫くことはできないわけだが、
とりわけ既成の性やジェンダーの概念に挑む生き方を選んだ人間は“個”として覚悟が必要だ。
マイノリティの団結みたいなストーリーとも一線を画し、
一人一人に孤独を感じるところにも痺れる。

小細工せずにポイントを押さえて場面場面に迫り、
愚直なほどストレートに捉えたカメラ・ワークは監督の意志も感じて何気に熱い。
それぞれの人物の心の内まで映し撮ろうとしたかのようで、
映像の明るさと暗さのコントラストもナチュラルで気持ちいいのだ。
一人一人に対する落ち着いた捕え方には浮ついた仕上がりにはしたくなという意思も感じられた。

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とある人物が映画の終盤で言った
「生きるっていうのは多少なりとも他人に迷惑をかけるものだ」という言葉がえらく響いてきた。
むろん想像力欠乏症でエゴの塊の無責任な人間には適用不可である。
容姿だけでなく心の奥底も鏡に映し出して掘り下げて内省的な気持ちをもつ
謙介みたいな人間にこそ有効な言葉だ。
他人を気遣うばかりに自分を押し殺して生きる人間にこそ有効な言葉だ。
年齢に関係なく死ぬまで有効な言葉だ。

謙介は自分自身を見つけた。
自分探しというよりは自分を掘り下げるきっかけが女装だった。
自分自身がないから周りと同じじゃなきゃ不安でグロテスクに見えるものや少数意見を排除する人間たちは、
粘着質の差別に走る。
とある人物は「“片親!”“引きこもり!”“オカマ!”」と謙介を馬鹿にした。
だが閉塞していた自分自身から突き抜けるための意志はすっかりストロングだ。
迷いを葬り去った終盤の謙介の笑顔がとってもとてもチャーミングである。

こんなにすがすがしい映画を見たのは久しぶりで気持ちがいい。
ひとりひとり違うはずの“個”を抹殺する因習や集団から解き放たれるハッピーな佳作だ。


★映画『僕の中のオトコの娘(こ)』
2012年/100分/HD
12月1日(土)銀座シネパトスにてロードショー。
ほか全国順次公開。
http://www.boku-naka.com/


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コメント

行川さんの女装写真うpしてください

前に進む映画のようで、これも観たいです。しかもターニングポイントになる所が凄く気になりますね。今の自分に必要としているパワーがありそうです。

書き込みありがとうございます。
>野獣先輩さん
奇跡的に撮影もしたのでプリントされた写真があると思いますが、管理がイマイチなので簡単に探し出せませんしデジカメ以前の話なので簡単にアップできません。あしからず。
>かくさん
ストレートな展開ですが、ターニングポイントの積み重ねみたいな映画です。自分自身にしっかり向き合う一生懸命な人には打たれます。あと本文で触れ忘れましたが、加速度とは違う心地よいスピード感とリズム感があって、音楽がうるさくないから気持ちの“慣性”で持っていかれます。

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Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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