なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『トールマン』

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生かさず殺さずのホラー映画の極北『マーターズ』(2008年)に引き続き監督・脚本を手がけた、
71年フランス生まれのパスカル・ロジェによる2012年の映画。
リアリズムに貫かれたミステリー作品である。

立ち会った者すべてに一生消えないトラウマを肉体に刻み込む『マーターズ』の残虐性とは一味違う、
精神的に残酷な映画だ。
むろん痛切の思いがヒリヒリとわななくほど血が流れる傷の生々しさは格別である。
だがそういったシーンはストイックなほど必要最小限に抑えられ、
妥協を許さぬ冷厳な空気感はさらに研ぎ澄まされ、
社会性を帯びたストイックなストーリーと圧倒的な映像力でゆっくりとじっくりとねじ伏せる
主演は最近『トータル・リコール』でヒロインを務めた米国生まれのジェシカ・ビールで、
カナダ生まれのジョデル・フェルランドとスティーヴン・マクハティが脇を固める。

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米国北西部ワシントン州ビッツビル郡のコールド・ロックは炭鉱町だったが、
鉱山の閉鎖で急速に寂れて広大な森とトンネルだけが残る街になって人々の意気は消沈し、
そんな中で幼児が次々と行方不明になる。
目撃者の証言では連れ去ったのはフードをかぶった長身の男で、
まもなく人々は“トールマン(The Tallman)”と呼ぶようになる。
そんなコールド・ロックの街で、
町医者だった夫の死後も小さな診療所を切り盛りする看護婦のジュリアは
愛する男の子を目の前で連れ去られてしまう。
死闘を繰り広げながら追跡を続けて傷だらけになったジュリアは、
人々が集まるダイナー(カウンターのある米国伝統のレストラン)に行き着いて転機を迎える。

ここまでが前半で、
中盤以降は思わぬ展開が約束されているから書けない。


世界各地の政治も日本の日常も
被害者が実は加害者だったり
加害者が実は被害者だったりする。
多数決の正義を冷ややかに見下ろすかのような空気感が強烈だ。
森に囲まれた地が舞台とはいえ一生陽が当たらないような気候をイメージする冷気をはらんだ映像が、
室内を冷却して体温も下げる。
監督はポルノからモンスターものまで本能に訴えかけるという点で日本映画から影響を受けたそうで、
そういった切り口もストレートに反映されている。

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子供の失踪が多発している国は少なくなく、
“殺人兵器”に仕立てるために様々な国でテロリストや民兵による子供の誘拐が続いているし、
一人っ子政策の歪みで子供が足らない事態も生じている中国では子供の誘拐がビジネスになっている。
そんな中で本作は現在の米国社会を反映した映画らしく、
街のあちこちで見かける“行方不明の幼児を捜す貼り紙”がモチーフの監督によれば
“現代の都市伝説に対する自分なりの回答を提示した”という。

世の中の、
いやもっと焦点を絞って米国のシステムの崩壊に対する監督の意識が投影されている。
監督なりに解釈した“子供の本音”の表し方も非常にシビアで身の毛もよだつ。
冷めているわけではない。
登場人物すべてが必死に“しあわせ”を追求している。
これは“救済”の映画だ。


“子供たちを守るため”にヒューマニズムの生皮を剥ぎ、
敗北と苦痛の悪循環を断ち切るべく描き出された底無しの閉塞感が恐ろしく快感な佳作である。


★映画『トールマン』
2012年/原題『The Tallman』/アメリカ・カナダ・フランス/106分
11/3(土)より、シアターN渋谷にてロードショー。
ほか全国順次公開。
http://the-tallman.com/
© 2012 Cold Rock Productions Inc., Cold Rock Productions BC Inc., Forecast Pictures S.A.S., Radar Films S.A.S.U., Société Nouvelle de Distribution, M6 All rights reserved


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コメント

これですね、シアターNの。。。「多数決の正義を冷ややかに見下ろすかのような空気感が強烈だ。」っていう所に鍵がありそうな感じがしますけど、観てのお楽しみですね。トールマンっていう言葉自体が不気味ですし、タイトルになってる所がまた誘われます。

>かくさん、書きこみありがとうございます。
渋谷シアターNの一つのカラーだったホラー映画・・・いや精神的なホラーかもしれません。映画の鍵になることは文中で色々書きましたが、普遍的に示唆を与える映画だと思います。

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Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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