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パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『灰とダイヤモンド』

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ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が手掛けた代表作の一つである1958年映画。
英題は『Ashes And Diamonds』で、
ポーランドのみならず曇天の香り漂うヨーロッパならではのモノクロの“不条理劇”である。

近年は『アンナと過ごした4日間』『エッセンシャル・キリング』を監督したイエジー・スコリモフスキ監修の、
“ポーランド映画祭2012”の一つとして公開される。

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第二次世界大戦が終わりに近づいていた1945年の5月、
ポーランドを支配していたドイツに抗うワルシャワ蜂起のレジスタンスとして戦った友人同士の二人の男が、
ナチス同様に自由主義をつぶそうとするソ連の息がかかった自国の政治指導者の暗殺を試みる。
だが一般労働者を誤って射殺したことが後で発覚。
その二人の男のうちの“チャラ男”の方がバーでカウンターを仕切っていたクリスティーナに一目惚れし、
成り行きまかせで生きて行き着いた“抵抗勢力”から足を洗って新しい社会で人生をやり直そうと試みる。
だがもう一人の男の方のクールな“上司”は
「女にうつつを抜かすな。蜂起の時も今も君は兵士。大義は大義だ」と諭す。
そして“チャラ男”は“とある行動”に出る。

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ネタバラシを最低限に留めて大ざっぱにストーリーを書くと以上のような感じだが、
ポーランドを取り巻く当時の政治的な背景を詳しく知らなくても、
激動の時代に置かれていつのまにか暗殺者になった男が本性を表す人間ドラマとして味わえる。
主人公が求道的な革命一筋のキャラではなく女好きの“反逆者”という点で映画『カルロス』にも通じる。
ただこちらは政治的なニュアンスが否応なく向き合わざるを得ない現実として覆う曇り空の如く幕を張る。
当時の監督の立場が表れているのか“筆致”はあくまでもストイックだ。
アンジェイ・ワイダ監督が自らの体験も踏まえたと思われるポリティカルな空気感に包まれつつ、
ほろ苦いロマンスのスパイスが利いたサスペンス仕立てである。

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ワイダ監督としては、
当時ソ連の影響で強権的な色合いが強まっていた体制に抗う意志を込めて描いたと思われるが、
表現の自由が極めて限定されていた時代に上映が許可されたのは
しょせん抵抗勢力は”ashes”・・・という解釈ができる作りだったからとも思える。
だが当時のポーランドに限らず日本も含めて現代でも様々な国に当てはまる、
規制が強い中でギリギリのラインを狙った綱渡りの表現ならではの緊張感に貫かれているのだ。

『灰とダイヤモンド』という映画のタイトル自体もベタとすら言えるほどストレートだが、
英題の『Ashes And Diamonds』の複数形表記が示すように
“灰”も“ダイヤモンド”も本作の登場人物に限定してない。
いつでもどこでも世界は“灰とダイヤモンド”のバランスで成り立っていると言わんばかりにも映る。
たびたび映し出されるハードな状況と脳天気なパーティとのコントラストもそのひとつだろう。
随所に流れる優雅な音楽は朽ちかかったヨーロッパの芳醇な膿にも聞こえる。

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なにしろ映像力にのっけから引き込まれる。
脇役や名前もない登場人物も含めてひとりひとりの人間をていねいに捉え、
映り込む事物ひとつひとつていねいに捉えた緻密なカメラ・ワークに息を呑む。
ストーリー展開はハッピーエンドではないかもしれないがデッドエンドではない。
目が覚めるほど彫りが深くコクのある強靭な映像から光が見えてくる。
そこがまさに“灰とタイヤモンド”の輝きなのである。

★映画『灰とダイヤモンド』
1958年/102分/デジタル
11月27日(火)18:30、12月1日(土)11:00、12月5日(水)13:30
渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開。
以下のイベントの一環で『ビーツ・オブ・フリーダム』などと共に上映される。

・「・偵・繧ケ繧ソ繝シjpeg_convert_20121030102333
“ポーランド映画祭2012”
2012年11月24日(土)-12月7日(金)2週間限定
渋谷シアター・イメージフォーラムにて開催。
公式サイト www.polandfilmfes2012.com


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コメント

共産主義の終焉

おはようございます。共産主義の価値観を失速させる上で【映画】【音楽】が果たした役割を無視できないことに気づかされました。

検視官さん、書き込みありがとうございます。
とりわけ今みたいにインターネットがない時代、映画は全体主義態勢にとって重く見られていたと思います。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)、
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)、
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)<以上リットーミュージック刊>、
『メタルとパンクの相関関係』(2020年~BURRN!の奥野高久編集部員との“共著”)<シンコーミュージック刊>
を発表。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、ギター・マガジン、ヘドバンなどで執筆中。

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