なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ウイグルからきた少年』

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カザフスタンやイラクに滞在した現役自衛官ならでは視点で迫る佐野伸寿監督の2008年の映画だ。

中国に隣接する中央アジアのカザフスタンで崖っぷちの日々を生きる、
“リアル・ホームレス”の三人の子供たちの物語である。
毎日ギリギリの生活の中で息をしているから四六時中ポリティカルな状況の子供たちだが、
ミドル・ティーンにして最期を悟っているかのような諦念が自然な形で描かれている。


チベット自治区の問題の影に隠れてしまったが、
北京オリンピック前後にも暴動が起こった新疆(しんきょう)ウイグル自治区。
国としては中華人民共和国の西端に属するが中国共産党の締めつけが厳しく、
今年7月上旬には、
中国政府の政策なのか中国から年々流入して勢力を強めて優遇されていると言われる漢族に対し、
元から住んでいて基本的にイスラムのウイグル族の不満が爆発して抗議デモが発生。
伝えられる情報によれば、
双方の争いと中国政府の過剰な取り締まりも含めて多数の死者も出たという。

映画の舞台は、
全体主義国家・ソ連の90年代初頭の崩壊後に独立した国家の一つで新疆ウイグル自治区の西隣りのカザフスタン。
中国の支配から逃れたいと思った人々が新疆ウイグル自治区から移り住んでいっている国だが、
そういう人たちの生活は非常に厳しいという。

島国とは比べものにならないほど地続きの地域は民族や宗教などの諸問題が入り組み、
新疆ウイグル自治区もカザフスタンも旧ソ連の核だったロシアとの関係は抜き差しならないものがあり、
政治的な背景は複雑だ。
でも本作は65分というシンプルな形にストーリーを凝縮し、
ヘヴィなポイント押さえつつもいい意味ですっきりした仕上がりである。
小難しい政治性とは距離を置いた素朴で簡潔にまとめた構成により、
はかなさが増幅されている。


同じような体験をした60歳前後の男性の談話がイントロダクションである。
「やられたらやり返す!の考え方では何も生まない」と、
実際はカザフスタンで“自爆テロ”が起きてないことを暗に示す。
だがこの映画ではあえてその危険性も排除できない状況を静かに綴る。

詩情あふれる映像でカザフスタンの静物や土地の匂いを感じさせただけでもこの映画は成功だと思う。
随所に民俗音楽が挿入され、
東京出身のシンガーソングライターのKOKIAの歌も流れる。


uyghur_sub1_convert_20091002190246.jpg


まだローティーンと思しき子供たちは三者三様だが親から離れている。

ウイグル人の男の子のアユブは、
「一緒に死んではだめ! 自分で運命を切り開きなさい。自分の道を生き抜くのよ。
私たちの人生を真似しないで。アラーが見守ってくれるわ」と、
不当逮捕された親に突き放されて一人カザフスタンに家出。
裕福な家で育ったカザフ人の男の子のカエサルは政府の要職に就く親の元で裕福に育てられたがゆえの葛藤からか、
やはり家出。
ロシア人の女の子のマーシャは養父に性的虐待を受けて家出。

三人は廃屋に住むが、
たびたびチンピラが居住費と光熱費の取立てに来る。
マーシャは体調を崩しながらも街娼で生活費を稼ぐ。
カエサルは男色と思しき男性から小遣いをもらう。
アユブはレンガ工場で働く。

やがてアユブは集金屋のチンピラに連れ出され、
「おまえも“祖国”の英雄になれるぞ。彼らは捕まった母親を助け出すと約束してくれたよ」と言いくるめられ、
その男の借金のカタとして“原理主義者”に売られる。
銃を手にし、一人で体を鍛え、爆弾作り。
無表情であることが生々しい。

そんな頃もう一人の男の子のカエサルは前から揉めていた他の子供たちとの“抗争の結論”が下される。

廃屋で二人っきりになり、
重病とも想像できる咳き込みようのマーシャはアユブに「あんたのお嫁さんになってあげようか?」と告げる。
セクシーですらあるマーシャの幻惑的な姿が尾を引く中。
肉体に爆弾を巻いたアユブはチンピラに連れられて親子連れが集うパレードの場に出る。
ナイキのウエスト・バッグのファスナーを開いてスイッチ・オン。
アユブの目には自分と同年代の子供たちと親たちが途切れなく映り、
まるで実行を躊躇するかのように時間が流れていく。


監督は紙資料などで“自爆テロ”の代わりに“自爆攻撃”という言葉を使っている。
少年にはテロという意識がないからだろうか。
政治的理屈を話しても理解できないからなのかオトナは何に説明をしてくれず敵が明確に見えてない子供にとっては、
攻撃もへったくれもない。
単なる自爆だ。
犬死は古今東西絶えないわけだが、
この映画では世界中で起こり続けている子供たちの受難と政治的/民族的な紛争をも絡めている。

家族と民族の間で翻弄されて自分が落ち着ける国がない子供。
人生の終末に向かってゆっくりと加速しているようにも見える映画だが、
幼いラブロマンスが芽生えて希望を持たせている。
甘い終盤が美しくて救いだ。

メインとなる子役の3人は、それぞれ92年、94年、95年生まれ。
一人は俳優の経験者で、
他の二人は親が俳優とはいえ素人ということが功を奏し、
無垢なままそれぞれの運命に送られた映画上でのポジションが自然に演じられている。


10月3日(土)より、渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー。
チケット代も一般の映画よりも抑えられている。


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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