なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アルマジロ』

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アフガニスタン紛争で派兵された北欧デンマークの若い男性兵士たちの
“出征”から“退役”までの2009年の7か月間を描くドキュメンタリー。
主にクローズアップされている兵士はアジア系を含む5人で、
彼らは英国などと共に最前線のアルマジロ基地を担当して反政府勢力のタリバンと戦う。
ドキュメンタリー映画を多く撮っているデンマークのヤヌス・メッツが監督し、
絶妙のカメラワークと多角的な編集によって“フィクションに見えるほどリアル”な佳作である。

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映画『エッセンシャル・キリング』の序盤にも引用されたタリバンは実質的にイスラム武装勢力で、
バーミヤン遺跡の大仏を破壊したのも女性に人権や勉強の機会を与えないのも
極端なイスラム原理主義に基づく。
男性も含めて“娯楽”に類する音楽や映画などは厳禁だから、
タリバンの支配地域ではCDを聴くのもDVDを見るのも命がけの状況である。

米国などが2001年にアフガニスタンに攻め込んだのは、
当時政権を握っていて恐怖政治を行なっていたタリバンが
いわゆる“9.11”の首謀者と指定されて国内にかくまっていていたとされるアルカイダの
引き渡しに応じなかったからということになっている。
その結果タリバン政権は崩壊し、
女性たちが教育の機会を与えられるなど人々は不条理な因襲から解放されたが、
地下活動に転じたタリバンのゲリラ攻勢は現在まで続いて泥沼状態。
そこに送り込まれた一派が本作のデンマーク兵たちである。

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ところがこの映画は、
派兵が決まった後の家庭内の様子から家族などの見送りの序盤から丁寧な作りがされているとはいえ、
アフガニスタンの状況やタリバンに対する説明はほとんどない。
それをやったら全体の流れが悪くなるために省いたのかもしれないし、
アフガニスタンに限定せず特定の政治的な意図を排した普遍的な視点で
“派兵された兵士たちの気持ち”を描きたかったのかもしれない。

もともと口にしてなかったとも編集の段階で削除したとも解釈できるし実際のところは不明だが、
政治的な背景などに対する兵士たちの発言があまりないことで、
彼らがそういうことに対して関心が薄く
深い知識も持ってない状態で戦地に臨んだことを監督が示したかったようにも映る作りだ。
PCでのポルノ鑑賞会、コンピューターでの戦闘ゲーム、ウエイト・リフティングなどなど、
屋内でも屋外でもリラックスできる場では遊びも忘れない。
息抜きはどこの国の兵士でもやっているだろうが、
それにしても恐ろしくライト感覚のムードがしばらく続く。

上下水道や道路などのインフラ整備のためにアフガニスタンに来たわけではない。
彼らは戦うために赴いた。
自主的に兵士になった者ばかりだろうから悲壮感は徴兵された兵士と比べようもないが、
びっくりするほど緊張感が漂ってないのはデンマークが“ゆとり国家”だからなのか。
貧しいからハングリーな兵士になるパターンも多い米国との違いも感じられる。
GORILLA ANGREBなどの多くのデンマークのパンク・バンドと同じく、
ここに登場する兵士たちはほぼすべて熱情を秘めているとしての基本的に温和だ。
税金は猛烈に高くても老後も生活保障が行き届いたデンマークの兵士と、
死ぬも生きるもてめえ次第のDIY自立自助のアメリカの兵士とでは根本的に違う。
少なくてもこの映画でメインに登場する兵士たちは戦闘的に見えない。
“本番”ではパン!パン!パン!と銃声が鳴りっぱなし。
にもかかわらずデンマーク兵たちの方が優勢の現場だからか深刻なムードはほとんどない。
サバイバル・ゲームのような感覚にも映る。

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ある兵士はサッカーと同じ感覚で「練習したなら実践もしたい」と言うし、
ある兵士は正義のためとかいうよりも「仲間が欲しくて来た」と言う。
現地に着いてもしばらくは何も起こらずに暇を持て余して「早く戦いたいよ」とも言うし、
いざ実戦に臨んで「パトロールしているだけよりも戦闘の方が充実感がある」とも言う。
それでも同じ部隊から負傷者が出ると緊張は高まる。
別の部隊だとしても周りで数人でも戦死者が出るとやはり深刻になる。
それでも戦闘後に「何発撃った?」「何人撃ったかわからん」とも言うのは、
自慢をしたいというよりは自分が今日したことをしゃべらずにはいられないからだ。
非日常的なことを行なった後はしゃべりたくなるのが人間の心理。
安穏とした雰囲気のようで実際は死と背中合わせで撃たなきゃ殺される状況なわけだから、
しゃべることで不安が安心へと“昇華”もされる。

戦闘中とその直後はハイになっている。
命がけだから興奮は当然だ。
そういうときに交わした生々しい会話ほど尾ひれがついた噂となって広まる。
ニュースになって人々から“異常”と言われる。
ヘタしたら「それはやりすぎだ」と軍法会議にも掛けられる。
だが「部外者は鼻で笑って『人殺し!』と言うだろうけど」
「言わせておけばいい。(伝聞と想像で語る人たちと違って)我々はすべてを見た」。
それが真実。
戦場に限らず生死に直面したギリギリの現場の人間の一言は、
死のことを死ぬほど考えてもいない“人権屋”の百万語よりリアルだ。
そんなことも再認識する映画である。

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畑と荒野の現地の住民たちとのやり取りを適宜挿入しているところも特筆したい。
子供をお菓子で手なずけるなど兵士たちはフレンドリーに接するが、
故意でないにしろ住居が破壊されて家族やその生活の支えの家畜を殺された人も少なくないから、
タリバンが好きではないとしても住民たちがデンマーク兵を手放しで歓迎することも難しい。
「平和のために協力してくれ」「平和にならないと学校も作れない」と言われても、
「あんたら(デンマーク軍など)に協力したら首が飛ぶ」
むろん“首が飛ぶ”というのは“解雇”でなくタリバンによる“斬首”を意味する。
「この国は疲弊し切っている」「タリバンも貧しいから戦っている」「みんな死んでいく」「おびえている」
いくら平和のためにデンマーク兵たちがやっているとしても土地を荒らしたあとに謝罪したとしても、
子供にも「帰って!」と言われていることがすべてを集約している。

ただし住民の声は限定されているということも頭に入れておく必要がある。
女性の談話がひとつもないのは残念だが、
話を聞くことはおろか映画スタッフが女性に接すること自体が困難な状況だったことが想像できる。
むろん男性でも発言や撮影を拒否した人も少なくないだろうし、
顔などをぼかして映画に出演してもらった人もいる。

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リアリティを高めるそういった要素を入れつつ映画的なドラマ性を帯びた作りがこの映画の個性だ。
単なる告発のためのドキュメンタリー映画も否定はしないが、
そういう映画とは一線を画している。
ドキュメンタリーに限らず映画ならではの特性を活かした様々な解釈ができる作品なのである。

ヘヴィなロックから物哀しい旋律の曲まで場面の雰囲気を増幅させる音楽が使われているのもポイントで、
ドラマチックなフィクションの映画にも見えてくる一因だ。
音楽を一切入れなかったらもっとシビアな印象の作品に仕上がったと思われるが、
音楽をミックスしたことで“中和”されている。
いわば丸裸ではなくところどころで服を着せた感じなのだ。

主にハンディカムのカメラ数台で撮影された映像が使われているが
デンマークの5人の兵士たちに装備してもらったヘルメットカムの荒れた映像も適宜挿入。
兵士の動揺と混乱もダイレクトに伝わってくる。
同じ場所でのシーンを長時間続けずに小まめに場面を変えるのは、
同じ時間に別々の場所で色々なことが起こっていることを示しているかのようだ。
なにしろ詩的な色合いを帯びながらも生々しい匂いも絶えない映像作品として素晴らしい。
やはり映像そのもので物を言うからこそスクリーンで見たくなる映画なのである。

四六時中戦っているわけではなく、
詩情すら感じられるまったりしたシーンの方が多い。
これがアフガニスタンの本来あるべき日常ということを表しているかのようだが、
それを“非常時”にするのが銃と爆弾。
穏やかなムードが基調だからこそそこを引き裂く戦闘シーンはギャップが大きくて戦慄が走る。
フィクションの戦争映画によくある残酷なシーンはあまり含まれていない。
それでもタリバンの方はたくさん死んでいて、
「奇襲を掛けやがって!」と言いながらデンマーク兵が死体から武器を取り外すシーンも強烈だ。

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言葉もドキュメンタリー映画にありがちな説明的な会話は皆無で、
たわいのないおしゃべりと深刻なトークと戦闘中の途切れることのない必死の声のリアル・ヴォイスのみ。
等身大の人間の姿ありのままである。
そうなのだ。
軍隊だろうが宗教組織だろうが反体制派だろうが集団に組み込まれることで抹殺される“個”を
しっかり描いているところがこの映画の心臓なのだ。
映画のプロローグとエピローグで兵士個々をバラバラな個人として描いていることが象徴的で、
始まりも終わりも一人の人間、
生まれるときも死ぬときも一人の人間ということを示唆しているかのようである。

「殺してもなんとも思わなくなった」とかいうセリフも出てくるが、
“行間”と“余白”を読まずにその表面的な意味だけを捉えると将来“痛い目”に遭うに違いない。
自分のせいで現地の子供が被弾して亡くなったことに対する呵責をするシーンをはじめとして、
葛藤などの感覚はデンマーク兵の中に十二分に残っている。
本作ではタリバンの談話が一切盛り込まれてないから彼らに関する一般的な情報を書くが、
“聖戦”の大義名分の下に命を惜しまず
まきぞいで子供が死んでも「仕方がない」と割り切っているからこそ怖いもの知らずで戦いに臨むタリバンほど、
覚悟を決めてないのが人間らしくて“救い”だ。


★映画『アルマジロ』
デンマーク/2010年/デンマーク語、英語/カラー/HD/105分
2013年1月19日(土)、渋谷アップリンク、新宿K's cinema、銀座シネパトス他、全国順次公開。
http://www.uplink.co.jp/armadillo/

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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