なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『マラドーナ』

サッカー界のスーパースターだったアルゼンチン出身のマラドーナのドキュメンタリー映画。
自身の生誕地である旧ユーゴスラビアの動乱を盛り込んだ映画『アンダーグラウンド』(95年)で知られる、
エミール・クストリッツァが監督だ。

最終的には“マラドーナ最高!”な映画だが、
痛快なだけでは終わらず適度にバランスよく苦みもちりばめて“罠”を仕掛けてもいる。
考えさせることもまた映画ならではの醍醐味ってものだ。

素朴に“マラドーナはパンク!”と言ってしまいたいほどの映画である。
それもかなり原始的なパンクだ。

今夏日本でも公開されたパティ・スミスの映画『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』も思い出した。
アートな仕上がりとは対極で監督のキャラが表れた元サッカー選手の映画だから汗臭いが、
基本的なバイオグラフィーやパフォーマンスのシーンを押さえつつ制作意識がノスタルジックではなく、
ジョージ・ブッシュを糾弾する場面を含めて今につながるエキサイティングなシーンがメインだからである。

メイン

マラドーナ自身の行動が結局そうであるように基本的にはエンタテインメントにまとめられているが、
色々なアングルから見てかなり政治的な仕上がりだ。
クストリッツァが“助演”もして政治的なベクトルの舵を取りながら誘導して進行させているのだ。
監督自身がかつて手がけたいくつもの映画のシーンを適宜織り込み、
さらにアルゼンチンと似た境遇と認識する自分の“第二の故郷”のセルビアのベオグラードにまで招き、
マラドーナに語らせている。

国家を代表するポジションになった人間は否が応でもポリティカルな役割を背負わされたりするが、
80年代からマラドーナはガソリンに点火されたみたいに燃えて切り込み隊長になっていた。

むろん選手として現役だった90年代半ばまでの活動はサッカーの舞台が中心に描かれ、
中でも分岐点になったのは86年のワールド・カップにおけるイングランド戦である。
当時マラドーナの頭を支配していたのは、
南米の南の小さな島の領有権をめぐりアルゼンチンと英国の間で82年に勃発したフォークランド紛争(戦争)。
マラドーナにとってはいわば祖国の戦死者たちの“弔い戦”であった。

ジョージ・ブッシュが米国大統領になってしまったことも手伝い、
2000年代に入ってからマラドーナの政治意識は高まる一方だった。
映画を撮影した2005年から2008年にかけても激動の時期だったからネタに尽きない。
サッカー云々を超えた南米のカリスマとして登場し、
当時キューバの国家元首だったフィデル・カストロ(カストロ将軍)とも接見。
マラドーナがチェ・ゲバラはもちろんのことカストロ議長の顔まで体に彫っていることを知れば不思議はない。
2000年代の南米の急先鋒であるベネズエラのチャベス大統領と集会で同席もしているが、
二人並んでいると“反米アジテーター”の兄弟みたいにも見えるほどやんちゃなノリがそっくりだ。

ぼくからすると政治に関するマラドーナの発言はナイーヴに映る。
まるで“南米左翼の教科書”を丸暗記したかのようで反米左派の優等生みたいなのだ。
もっとも監督はあえて政治的な面でも無邪気なキャラをクローズ・アップしたのかもしれない。

サブ1

深刻になりすぎないような構成もクストリッツァ監督とマラドーナらしい。
“息抜きタイム”もその一つで、
マラドーナの“世紀のシュート”のシーンを見せるサッカー・ファンにうれしいコーナーと、
“マラドーナ教の信者”のナンセンスなコメディがコンスタントに挿入される。

実のところクストリッツァ監督は80年代から活動しているバンドの、
Emir Kusturica & the NO SMORKING ORCHESTRAのギタリストでもある。
今回の映画のところどころで映るマラドーナもステージに上がったライヴ・シーンを見る限り、
民俗音楽をミックスしたロック・ミュージックという印象のサウンドだが、
SEX PISTOLSの曲を映画の中で頻繁に使ったということはパンク・ロックにも興味があるのだろう。
コンスタントに挿入される“息抜きタイム”の一つには
英国の王室の面々や首相、米国の大統領を次々におちょくった滑稽な風刺アニメもある。
そのコーナーのBGMはすべてSEX PISTOLSの「God Save The Queen」だ。

けどマラドーナも監督も、
ゲラゲラ笑うニヒリストなSEX PISTOLSよりも左翼的ヒロイズムのCLASHの心根だろう。
映画を見ながら色々なパンク・ロックがぼくの頭の中で鳴っていた。
たとえば英国のエリザベス女王やサッチャー元首相などのアニメならCRASSしかないだろ!と思ったし、
レーガン元米国大統領の場面ではDEAD KENNEDYS、
フォークランド紛争絡みのシーンではCONFLICT、
ドラッグ&アルコール&重度の肥満の場面でPOISON IDEA、
ジョージ・ブッシュ元米国大統領のシーンではお茶らけたNOFX、
さらに熱い気性と代表曲「USA」により南米で人気が高いEXPLOITEDとか、
ハードコア以降のバンドの曲を流す手もあるよなぁ……とも思った。
でもそうなるとストロングな映画になって雰囲気ぶちこわしな気もするし、
深刻になりすぎない明快な「God Save The Queen」だけを一種のジングルみたいに繰り返し使ったことで、
節目節目で荒唐無稽なムードを醸し出している。

サブ2

ところかまわずうれしそう中指を立てるマラドーナ。
一貫しているのは権威主義へ反逆である。
そのためにはサッカーのグラウンドだろうとプライベートな場だろうと“反則”を犯す。
いわばコカインをはじめとするドラッグ常用もその流れでありその結果でもあった。

ただマラドーナを語るときに外せないそういうドラッグと肥満の問題には少なからず言及しているが、
おしなべてダーク・ゾーンには突っ込み不足にも思えるし、
家庭問題も影の部分はストレートに描いていない。
たとえば特に90年代はアルゼンチンで人気が高かった、
RAMONESのハードボイルドな秀作ドキュメンタリー映画『End Of The Century』みたいに、
表面的にはハッピーに見える対象の暗部に覚悟を決めて挑んだわけではない。
やっぱりハードコアというよりは“マラドーナ万歳!”を謳うパンクな映画である。

ドラッグも肥満もそのままどっぷりだとアンチヒーローってことになるが、
ある意味それで箔をつけたようなイメージにもなり、
しかも克服したことでまた株を上げてマラドーナは破天荒なヒーローのポジションの座を固めたのであった。

固有名詞が頻発するからサッカー歴や政治的背景を知っていると深く楽しめるだろうが、
知らなくてもマラドーナの傍若無人のノリに持っていかれると思う。


ふとプレス用の紙資料を見るとマラドーナは1960年10月30日生まれ。
自分の父親と誕生日が同じで生前のことを思うと妙に納得した。
ぼくは蠍座を憎み切れない憎めない。


●映画『マラドーナ』
12月12日(土)より、シアターN渋谷にてロードショー。
(C)2008-PENTAGRAMA FILMS-TELECINCO CINEMA-WILD BUNCH-FIDELITE FILMS.
公式HP www.maradonafilm.com


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://hardasarock.blog54.fc2.com/tb.php/96-13d751cd

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (9)
HEAVY ROCK (241)
JOB/WORK (294)
映画 (262)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (43)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (420)
EXTREME METAL (129)
UNDERGROUND? (99)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (124)
FEMALE SINGER (43)
POPULAR MUSIC (27)
ROCK (83)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん