なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『ベルヴィル・トーキョー』

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女優としても経験を積んできている女性映画監督3人の3作品を上映する企画の、
“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”の一環で上映される一つ。
74年フランス生まれのエリーズ・ジラールが監督と脚本を手がけた初の長編作品で、
妊娠中にひとりで過ごす経験をした監督ならではの感覚により
若い夫婦の間に芽生えていく空漠感の流れを静かに描いた2011年の佳作である。

同年公開の映画『わたしたちの宣戦布告』とまったく同じ配役で、
かつて実際にカップルだったヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイムが妻と夫を演じているが、
こちらは逆のベクトルで5ヶ月間の夫婦物語が綴られる。
というわけで『わたしたちの宣戦布告』を見た方は対照的な展開を楽しめるし、
見てない方も“この男サイテー!”といった具合に感情移入しながら楽しむことができる映画だ。

サブ4

名画座で積極的な仕事をしているマリーと映画評論家の夫ジュリアンのストーリー。
パリからイタリアのヴェネチアに出張する直前のジュリアンが、
妻のマリーに「向こうに愛する人がいる」と告白することから始まる。
ただでさえショッキングな言葉が妊娠していたマリーには百万倍こたえ、
仕事に支障をきたすようになっていく。

すれ違いは誰にだってある。
間違いも誰にだってある。
そんな感じで以前と同じように二人は戯れる。

だが楽しく会話していても産まれてくる子供の話題になると突然そっけなくなるジュリアン。
そのあからさまに正直な態度は神経過敏になっているマリーの心の急所を直撃し、
いらだちが募るばかりだ。
マリーの不信感がふくらむ中でジュリアンは東京に出張に行くと告げて出かけるが、
アジア人の声が背後に飛びかう街だから電話口で“アリバイ”になると思ったのか、
ジュリアンがマリーに毎日電話をしたのはなぜか国内のベルヴィルからだった。
不可解な行動と曖昧模糊の態度がエンドレスで続くジュリアンに対し、
まもなくマリーはすべてを突きとめてすべてを問い詰める。

サブ2

ベタな物語とも言える。
古今東西永遠に普遍的な出来事が素材だと浅はかで退屈な映画にも陥りかねないだが、
だからこそ監督の手腕が問われる。
『ベルヴィル・トーキョー』は脚本や映像のセンスと力によって
ありふれた話を異次元に持っていくのだ。
ディテールでくすぐりながら、
底無し沼の心の闇にゆっくりと落としていくかのごときディープな作りが素晴らしい。

二人のコントラストがこの映画の肝だ。
ジュリアンの言動は嘘がバレバレでハタから見ていてほとんどお馬鹿さんである。
すぐ顔や態度に表われて“工作”が下手なところも含めて幼稚と言えるほど子供だ。
現実感覚に欠ける夢想家で飄々と煙に巻く“チャラ男”の夫に対し、
現実感覚がお腹の中でふくらんでアグレッシヴに物事を追い求めて突き詰める妻のマリーは
ストレート&シャープなアティテュードで行動しながら慎重に事を進める大人。
興奮することはあってもめったに取り乱さない。

ジュリアンは「許してくれ」「愛している」が常套句。
マリーに家から追い出されているときは「会いたい」も“オプション”でプラスされる。
そんなジュリアンに対してマリーは「信じられないの」「甘えないで」とストレートに複雑な心理を吐く。
無責任な人間はどこにでもいるが、
慣れ合いで済まされがちな“家族”だからこそ逃げることなく
しっかりと向き合って<会話>で終わらせずに<対話>を求めるマリー。
二人の空間に醸し出される重さの落差も密かに見どころだ。

サブ1

燃え上がっている時間がほとんどない。
甘いロマンスの燃えカスのくすぶりが時に曇らせ時に灯を照らす。
映画の仕事という共通項は見えてくるが、
どのようにして二人が知り合って愛情を育んで結ばれたかは問題ではない。
崩壊の始まりから描いてカップルの交感が消え入る過程を描く映画である。
家庭がふくらむ期待をなかなか捨てきれない妻と、
そんなことは眼中にない一方で生まれてくる子供のためだけに離婚はしない夫。
だが永遠のすれ違いは断ち切って突き抜けなければ進めない。

サブ5

そんなマリーを演じた女優ヴァレリー・ドンゼッリが、
『わたしたちの宣戦布告』に匹敵するグレイトな名演だ。
鋭い視線と言葉とクールな身のこなしにゾクゾクし、
しなやかでストロングな佇まいに女性も男性も琴線を射抜かれること必至である。
映画の監督や脚本もやってきているマルチな女性ならではの表現の術を心得ている動きなのだ。
今回は音楽でいえばプロデュースもやるシンガーソングライターが歌うことに専念した形で、
他の人がすべてお膳立てした舞台で演じることに専念したポジションならではの
静謐な佇まいの中の鬼気迫る表現力に痺れるほかない。
日増しにお腹が大きくなっていくにつれて夫と遊離し、
不安感と自立心が増していく様子が静かに伝わってくる。

荒唐無稽なアイデアも含めてアドバイスをする周りの人間もユーモラスでいいアクセント。
むろん夫のジュリアン役のジェレミー・エルカイムも中途半端な男ぶりが絶好調である。

サブ3

忘れちゃいけないポイントが、
エリーズ・ジラール監督が映画館の広報を担当していた経験も活かした映画ネタの数々である。
マニアのツボを突く固有名詞も出てくるし、
細かいことがわからない方でもシンプルに映画好きな人であればくすぐられる設定なのもうれしい。

演技力や脚本もさることながら映像そのものの力もやっぱり大切である。
60年代からジャン=リュック・ゴダールやエリック・ロメール
クロード・シャブロルなどの多数の映画を撮ってきたレナート・ベルタの撮影は特筆すべきだ。
いわゆる長まわしの多用で夫婦のやり取りなどを覗き見している気分にもなるし、
落ち着いた場面展開でドキュメンタリー・タッチだからリアリティを増しているのだ。
泥沼になろうが情念といった類いのドロドロとは対極の空気感は、
二人の関係を象徴するような淡く寒々とした色の映像によるところも大きい。
首尾一貫してクールな筆致に心地よい緊張感を覚える。

目が覚めるほど研ぎ澄まされた終盤のゆっくりと加速する映像は秀逸と言うほかない。
生命の誕生と信愛の消滅という一般的にはポジティヴとネガティヴの融和で最果てを描き、
恐ろしいほど美しいフェイドアウトである。


★映画『ベルヴィル・トーキョー』
2011年/75分/カラー/デジタル
“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”
『グッバイ・ファーストラブ』『スカイラブ』『ベルヴィル・トーキョー』
3月30日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて3作品同時、6週間限定ロードショー。
全国順次公開。
なお来たる3月16日 (土)には東京・表参道のショップ“PASS THE BATON GALLERY”において、
数量限定で“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”64ページの豪華映画パンフレットももらえる、
エリーズ・ジラール監督の来日トークイベントあり。
http://mermaidfilms.co.jp/ffnw


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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