なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『カレ・ブラン』

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67年にパリで生まれて多数のCM制作を経た後に2004年に初の映画を手がけた、
ジャン=バティスト・レオネッティ監督による初の長編映画デビュー作。
主演は『スズメバチ』『ストーンカウンシル』で知られるサミ・ブアジラである。
終始陰鬱な空気が立ち込め、
“前期CARCASS meets CANNIBAL CORPSE”なデス・メタルの“人肉スパイス”を効かせつつ、
後期CARCASSの絶望感に貫かれたインダストリアル・ノイズ・テイストの“ラヴ・ストーリー”だ。

いわゆる残酷なシーンは多少あるが、
エロも含めて露骨な映像が埋め尽くすわけではない。
だが“精神的な暴力の提示”を理由にR指定を受け、
フランスでは数館のみの上映に留まったという。
確かに視聴覚を司る精神と神経を脅かす異様なエクストリーム映画である。

本作を作るに当たって影響を受けたのが『THX1138』『惑星ソラリス』で、
好きな(70年代の)アメリカ映画が
フリードキンの『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』『恐怖の報酬』、
キューブリックの『時計じかけのオレンジ』、パクラの『コールガール』、
ペキンバーの『ゲッタウェイ』『キラー・エリート』と言う監督。
このリストにピン!と来た方も間違いない。

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舞台は近未来の都市。
富国強兵の国家の如く、
“子供は素晴らしい”と喧伝するここでは
“(生殖のための)セックスの奨励”“住民の妊娠/出産の告知”“人口精液注入の勧め”
などのプロパガンダ放送がしつこく流れる。
ゲートボールのようなスポーツであるクロッケーの試合の結果報告のアナウンスもいちいち流れる。
自死が固く禁じられている世界のためビルなどの下には自殺防止用の防御網が張られている。
そのいずれもがナンセンスだけに恐ろしい。

主人公のフィリップが少年の時代から話はスタート。
“弱者”の人間のミンチを作ってパック詰めにする工場で働く母親と高層住宅で暮らしていたが、
路上に転がった母親が人肉加工場に回収されていったあとフィリップは孤児院に移る。
養護施設でフィリップは孤独感が増して母親の後を追おうとするも、
将来の妻になるマリーに寸前で止められる。
施設内は、
<人肉加工場に運ぶ際に死体を収納する黒袋に自ら入りたいと思うような“家畜”に生きている価値はない>
とばかりの“ヤらなければヤられる命がけの張り詰めた空気。
「これはゲームよ。苦しみを取り除く方法。勝者もいれば敗者もいる」という思想教育を受けていく。

成人になったフィリップは組織の管理職として働き、
ナチが収容所でユダヤ人に行なっていたような無意味だからこそ残酷な手段で、
入社志望者に命がけの試験の相手をしている。
フィリップだけでなく“社畜”と化した人間たちは団体行動から外れることも許されず、
子供っぽい理由で気にさわった人間に難クセつけては死ぬまで集団暴行を行なう。
妻マリーと一緒にいたフィリップも部下に狙われるが、
営業スマイルで正気を保つ社内駐車場ガードマンの老人に助けられる。
そんな中で子供の頃に自分を救命したマリーとの関係は冷え込む一方。
マリーは「子供をつくってくれない。あなたのすべてが嫌い。あなたは変わってしまった」と嘆く。
フィリップはマリーを愛している。
だがフィリップにとって“ゲーム”を止めることは悲惨な末路を意味する。
その葛藤が渦巻くまま映画はゆっくりと加速していく。

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米国のオバマ大統領に顔が似ている大人になってからのフィリップが不気味だ。
内面は子供の頃のトラウマが肥大化したモンスターのようである。
養護施設での教育もさることながら複雑な思いを抱いていた母親の身投げの影響も大きそうで、
生前に言い聞かされた「心を隠すのよ。それを覚えなさい」というフレーズも
フィリップが徹底的に感情を殺す主因になったと想像するに難くない。

ただ“産めよ増やせよ”のプロパガンダの中でもフィリップが子供をつくろうとしなかったのは、
こんな世の中とこんな父親では子供はしあわせにならないという認識があったからとも想像できる。
“子作りの奨励”や“誕生ニュース”をやたらと街中で放送するにもかかわらず、
フィリップらが子供の頃のシーンを除いて子供がほとんど登場しないのも異様だ。
子供を隠すのも罪の映画にもかかわらずいったい子供たちはどこにいるのか。
説明が省かれているから見る人間の想像力でシナリオができあがるような映画とも言える。

反管理社会やアンチ・システムの映画ではない。
そんなナイーヴなものはわざわざ映画で確認する必要もない。
映画でしか体験し得ないことを映画でやるのがグレイトな映画である。
確かに警察も政府も登場しない。
監督は言う。
「(この映画には)人を支配、もしくは檻に閉じ込めようとする外的なものはないのです。
そのような状況に自らを置いてしまう意識、それぞれの脳に問題があるのです。
私にとって、この映画の物語は非常に身近なものです。
今日、このような家畜化してしまうことがあるならば、それは個々の責任と問題だと思うからです」

映画全体を覆うゆっくりと加速する不安は夫婦の気持ちの反映だろうが、
普遍的にすべての人間の心理でもある。
どんな状況下だろうが体制と大勢に流されずにどこまで人間は“個”をキープできるのか。
ヒューマニズムとやらに冷や水をかけるかのようにセンチメンタリズムが殺ぎ落とされ、
感情が入る余地がない。
だが“三つ子の魂百まで”“善人なをもて往生をとぐいはんや悪人をや”というわけで、
一抹の“救い”は残しているようにも見える。
この映画の世界では自殺者や殺された人間は人肉ミンチと化してハンバーグなどに調理され、
“人肉表示”されているにもかかわらずパーティに出されてもたいていの人は“共食い”をする。
だがフィリップと妻は食べなかった。
特にフィリップは冷酷極まりない非情な人間になりながらも
ギリギリの“良心”は消失してないようにも見える。

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クレイジーな脚本にふさわしく映像もストレンジである。
映像からも感情が殺ぎ落とされている。
圧迫的に映し出しているコンクリートが非人間性の象徴のようで、
いびつな高層の建物や密閉された室内を見ていると息が詰まる。
予算が限られていたためショットごとに策を練り、
ヨーロッパの様々な都市でロケを行なって様々なビルや街を融合させたという手法も功を奏している。
カットアップみたいな映像処理も強烈だ。

インダストリアル・ノイズのムードの音楽も効果的で、
“デス・アンビエント”と呼ぶべき静かな音が神経に侵入してくるし、
うわ言や幻聴やラジオの混信みたいな音声も拡散している。
映像と相まって主人公のフィリップが陥ったとの同じく感覚の麻痺と覚醒をもたらす。
これぞ映画の醍醐味である。


★映画『カレ・ブラン』
2011年/ブランス=ルクセンブルグ=スイス=ベルギー=ロシア合作/カラー/ヴィスタサイズ/
デジタル上映/1時間20分
4月6日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー!
ほか全国順次公開
(C)Solair films-Tarantula-CJSC CTC Network-Tous droits
http://www.carreblanc-jp.com/


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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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