なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

SPIRITUAL BEGGARS『Earth Blues』

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ARCH ENEMY結成前の93年からマイケル・アモット(g)が率いている、
スウェーデンの“ヘヴィ・ロック・バンド”が『Return To Zero』から2年半ぶりに出した8作目。

マイケル以外の4人は、
しばらくOPETHと掛け持ちしていたペル・ヴィバリ(kbd)、
ほぼオリジナル・メンバーでFIREBIRDでも叩いていたラドウィグ・ウィット(ds)、
ARCH ENEMYでもマイケルのパートナーのシャーリー・ダンジェロ(b)、
2010年加入で一番新しいメンバーのアポロ(vo)である。


久々に2作続けて同じメンツでのレコーディングということでメンバー全員のサウンドがよく馴染んでいる。
大半の楽曲は歌詞も曲マイケルかベルが一人で書いてプロデュースはマイケルだが、
メンバー各々の演奏を別々に録った前作と違い、
奥野高久執筆のライナーによればベーシック・トラックの演奏は“スタジオ・ライヴ録音”とのこと。
ほんと1曲目が始まって1秒で異次元のヴィンテージ空間に引きずり込まれる。
奥行きといい広がりといい“精神的な乞食”というバンド名にふさわしく
侘び寂びの効いたナマの湿り気と乾きが融合しているサウンドで、
これまでのアルバムと比較しても最も生々しい。
人間の匂いも臭いも甘く苦く渋く酸っぱく聞こえてくるアルバムだ。

日本盤のサイトでマイケル自身がアルバム解説をしているように、
正直に元ネタを明かすのも彼の憎めないところだ。
たとえば4曲目の「Hello Sorrow」は
THIN LIZZYの「Waiting For An Alibi」のSPIRITUAL BEGGARS解釈みたいだ。
米国のベテランR&Bシンガーソングライターであるボビー・ブランドが74年に出した『Dreamer』の
アルバム・タイトル曲のカヴァーも渋すぎてたまらない。
SPIRITUAL BEGGARSがマイケルのワンマン・バンドではないことが、
このグレイトなテイクにもよく表れている。
メンバー全員ヘヴィ・メタルに留まらず音楽にしっかりと向き合って深く聴いており、
音楽に留まらず人間も含めて自分らが接する対象への誠意が感じられるアルバムだ。
過去の音楽を熱く厚くリスペクトしながら先に進むロックンロールの伝統を踏まえた深化は、
人間が歩むべき方向性をも示唆している。

アルバム・タイトルの“Earth Blues”というフレーズは、
ジミ・ヘンドリックスが活動末期のBAND OF GYPSYS時代にやっていた代表曲のひとつのタイトルでもある。
当時のジミの音楽性の核だったファンキーなニュアンスがギターから聞こえてくるのも偶然とは思えないし、
実際“Earth Blues”という言葉が本作のテーマになっているようだ。
世界中の様々な国の政府が国内の失政を目立たなくするために“外敵をこしらえる”のと同じ意識で、
自身の日々の無責任な行ないを隠蔽をするためにこしらえた“即席ポリティカル・ソング”にはウンザリする。
だがこの『Earth Blues』は政治的というより地球上の人間の愚行をモチーフにし、
英語の歌詞で普遍的に描く。
内省的な視点も踏まえているからこそ誠実に響きわたり、
ハードな哀しみを音と言葉で綴った“ブルース”が宇宙にまで広がっていく。

どの曲にもフックを設けたソングライティングで一気に聴かせる。
キーボードが大きくフィーチャーされた“ハード・ロック・チューン”はDEEP PURPLEも思い出すが、
もっとロックンロール~R&Bを感じさせる鍵盤で80年代初頭までのWHITESNAKEともダブる。
デイヴィッド・カヴァデールの喉が繊細になったようなアポロの歌いっぷりもいい。
ドゥーミーな曲も含みつつ哀愁の疾走感に痺れる。
むろん60~80年代のハード・ロックの棺桶に首突っ込んで窒息したカビ臭いアルバムとは一線を画して輝く。
BURRN!誌の連載コラムに挙げられている“今月の愛聴リスト”を見ても明らかなように、
マイケル・アモットはハードコア・パンクも好んでいる。
自国スウェーデンのハードコア・パンクも愛聴していて、
数年前に来日したとき某レコード店でANTI CIMEXの7”レコードを探していたという情報もある。

ヘヴィ・メタルと同じ次元で魂のこもったロックとしてマイケルが愛する、
ニヒリズムとニアミスした欧州のハードコア・パンクの気性で鳴らすソウルフルなハード・ロック。
悪かろうはずがない。
結成20周年にふさわしい佳作である。


★スピリチュアル・ベガーズ『アース・ブルース』(トゥルーパー・エンタテインメント QATE-10033)CD
16ページのブックレット封入の約50分12曲入りで、
日本盤はオリジナル曲の歌詞の和訳と2色セットのロゴ・ステッカー付。


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コメント

昨日購入しましたが、期待を遥かに超える素晴らしさでした。
ご指摘の通り、豊富な音楽的知識と確かなテクニックに裏打ちされた音は、単なる70年代回帰バンドとは一線を画していて最高ですね。
余談ですが、ここ1〜2年、大阪の中古レコード屋さんで若い北欧人のバックパッカーをよく見かけるようになりました。
何回か話しかけてみたんですが、みんな一様に「パンク/ハードコアやレアなメタルのレコードを掘りにきた。」と答えます。
今は日本のレコード屋さんがネットオークションより安くて種類も豊富らしいので、ある意味北欧の音楽ファンの間でトレンドになってるのが面白く感じた次第です。

Korokuさん、書き込みありがとうございます。
期待を上回ったのはぼくも同じです。アポロはソングライティングにはまだほとんど関わっていませんが、前作と違って彼のヴォーカルを想定してマイケルらが曲を書いたのも大きいでしょう。
昔より激減したとはいえ大阪よりも中古盤さんが圧倒的に多いと思われる東京でも、外国から来たと思しき人の姿をよく見ます。本文中のマイケルが訪れた店は新品も扱うマニアックなレコード屋さんで、彼らしいなと思いました。再編CARCASSで来日したときだったからビル・スティアーらも店に同行していたそうです。

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行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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