なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

“boid編”の書籍『フィリップ・ガレル読本 『ジェラシー』といくつもの愛の物語』

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帯の文句を引用させていただくと
“ゴダールとウォーホルに映画を学”んだ、
1948年フランス生まれの映像作家フィリップ・ガレルにまつわる本。
“爆音映画祭”の開催をはじめとしてシーンに一石を投じる精力的かつ多彩な活動を続けるboidの編集で、
ガレルの最新作『ジェラシー』の日本公開のタイミングでのリリースである。


コンパクトにまとめられた“フィリップ・ガレル略歴”をイントロダクションにして本全体が3章に分かれている。

第1章はいわば『ジェラシー』特集で、
映画『ジェラシー』に関するガレルの長文インタヴュー、
『ジェラシー』の“フォト・ストーリー”(台本のト書きとセリフの抜粋みたいな文+映画の場面写真で構成)、
『ジェラシー』にまつわる青山真治執筆のエッセイ。

第2章は“映画作家フィリップ・ガレルの肖像”と題され、
“ガレルを知るための20章”ということでガレル“人生”と“映画”を広い視野で深く掘り下げている。
自身の人生が反映された映画が多いだけにガレル作品に触れる際のありがたい手ほどきになる。
さらにマニアの心をくすぐるであろう長門洋平執筆のガレルにまつわる“映画音楽論”が続く。

第3章は“フィリップ・ガレル図鑑”。
“ガレルが愛した人々”を
【監督】【俳優】【音楽】【スタッフ】【その他】の項目に分けて一人一人丁寧に紹介し、
続く “全作品解説”では映画一つ一つを詳細なクレジット込みで1964年から丁寧に紹介されている。

60年代末から10年ほどプライヴェイトでもパートナーだったニコのことにも随所でスペースを割き、
彼女がそうだったように映画と音楽と人生の抜き差しならない関係もあらためて知る。


必然的に固有名詞は多いし個々の映画を観ていないと話に入っていけない部分も含むが、
飛ばし飛ばし読んでも面白い本は面白いもんである。
比較的取っつきやすいシンプルな文体の文章が多く、
ゆとりのあるレイアウトとポイントを押さえた適度な写真の挿入も相まって読みやすい。
もちろん表紙をはじめとして撫でると気持ちがいい質感の紙が使われていて匂いもよく
映画館の中にいる気分になりながら読める。

これからガレルの映画を観ていこうとするための絶好の手引きになるし、
ガレルの映画を観て疑問に思ったことを調べたり
ガレルの映画を探究する際に手助けになるし、
ガレルの映画を何本も観てきたマニアの方もイケると思う。


いわゆる新書版よりちょい大きめのコンパクトな手のひらサイズの四六判変型152ページ。
税込1620円。
http://boid.ocnk.net/product/132


書籍『ピート・タウンゼンド自伝 フー・アイ・アム』

ピート・タウンゼンド自伝cover


英国のThe WHOのメンバーでソングライターでもあるピート・タウンゼンド(g、vo)の初の自伝が、
森田義信・訳で河出書房新社から発刊されている。
“自伝”と謳いながら他の人間が書いているエセ自伝も多いが、
これはピート自身が執筆に15年以上を費やして書き上げたリアル自伝である。

残してあった日記やメモの類を基にしているのかもしれないが、
記憶が残ってなければここまでは掘り下げて書けないであろう詳細な記述に驚く。
何より当人以外ではここまで濃密な本は書けない。
2段組464ページというウルトラ・ボリューム。
速読者でも1日で読み切るのは難儀なほどピートの無数の足跡が綴られている。
むろんThe WHOにまつわる話が多いが、
全体の1/4ほどはソロ活動などの話題だから
ディープなピート・タウンゼンドのファンもうならせる。


幼少の頃に親と離れた生活もしていたし、
“ロックンローラー”にしては“健闘”したとはいえ結婚生活も安定していたとは言い難い。
ただミュージシャンとしてはかなりの痛手であるはずの難聴や耳鳴りをキャリアの途中で患うなど
トラブルに見舞われながらも、
ピートは家族と家庭に関してずっとハッピーだったように映る。
“不幸自慢”のストーリーとは違うある種ふつうの人間の物語として親近感を寄せる方も多いだろう。
ピートが典型的なロックンローラーとは一線を画しているからだ。

シャイで奥手な人である。
ステージではカッコいいが、
この本の中では情けなさを隠せない魅力があふれている。

“マージー・ビート(≒ブリティッシュ・ビート)”のバンドの中でThe WHOは、
いくらキース・ムーン(ds)がアナーキーな行動をしようが、
いくらロジャー・ダルトリー(vo)がギラギラした男性性をアピールしようが、
いくらジョン・エントウィッスル(b)がスカル・スーツを着てでかいベース音を出そうが、
いくらピートがステージで激しく動いて機材を破壊しまくろうが、
BEATLESやROLLING STONESと並ぶと地味に映る。

他のメンバーより一桁以上は控えめだったようだが、
ピートも“セックス、ドラッグ&ロックンロール”なライフ・スタイルと無縁ではなかった。
特にアルコールとの付き合い方には苦労していた。
でも有名無名問わずロック・スターによくある“不良自慢”で持っていく本ではない。
もちろん一般の人からしたら十分すぎるほど“不良”とはいえ、
大有名ロック・バンドのリーダーにしては“武勇伝”が大人しい。
恥ずかしいから隠している部分もゼロではないだろうが、
正直な“自己申告”と読める。

女性関係をはじめとする性的な話はデリケイトな扱いだ。
ファースト・ネーム入りで女の子の話が細かく出てくるが、
女好きでありながらずっと変わらぬピートのヘタレ・キャラが切なく愛おしい。
虐待された過去があったがゆえにチャイルド・ポルノ(児童ポルノ)のサイトにアクセスして逮捕され、
“誤解”を解くためのページもかなり割いている。

不器用なキャラが文章にも表われている。

少年時代は目標に向かって進むまっすぐな道で描かれているし、
The WHOでの活動の部分は他のメンバーの見えない糸で制御されているかのように整理されている。
だがソロ活動の部分になると断続的な記述が多くなる。
盛り込みすぎて話が散っているところもあるが、
80年代以降は特にプライベートも含めて同時多発的に色々なことが起こったドキュメント仕立てだ。
あまり自分自身の感情を爆発させず、
クールに自分自身と距離を置いたような語り口である。
英国人らしいユーモアに加えて“エスプリ”も効いており、
英国文化もさりげなく滲む。

BEATLESやROLLING STONESなどと違ってThe WHOは双頭体制でなく、
ほとんどの作詞作曲を手掛けるにもかかわらずピートの独裁体制でもなく、
メンバーみんな我が強かったがゆえにバンド内は奔放で尊敬と確執も格別だった。
特にロジャー・ダルトリーとの永遠の反目と信頼でピートのエナジーが生まれていることがわかる。
家族や他のミュージシャンをはじめとする人間関係の記述が緻密だが、
ジャンル問わず吸収していった音楽の話もたいへん興味深い。
ハード面とソフト面に関してかなり詳しく述べられている。
The WHOの他のメンバーのプライベートな話はあまり出てこないが、
やはりThe WHOとピート・タウンゼンドに関する本の決定版と言えるだろう。

むろんThe WHOもソロも曲やアルバムの解説や制作エピソードも満載だ。
ライヴやツアーにまつわる話もたっぷりでステージングの話も面白い。
腕をぐるぐる回す“風車のギター”やジャンプといったピートのステージ・アクションが
後のロックンロール・ミュージャンの基本になったことよく知られているだろう。
CLASHのポール・シムノン(b)も
ステージを飛びまわるアクションはピート・タウンゼンドからの影響が大と自認する。

イメージ作りをはじめとするバンドのアピールの仕方を含めて、
ロックンロールをアートとしても表現して映画やミュージカルなどとのリンクも積極的だった。
ロック・オペラに象徴されるように音楽を“ドラマ”としてもふくらませ、
作詞作曲家というだけでなく様々な意味で“作家”としても活躍。
一方でチャリティにも御執心である。


「(クールと思われていたジェイムズ・ディーンが、その実、内面は不安のカタマリだったのと同じように)
私もステージ上ではミュージシャンとして、
実際の生活ではとうていやれないようなことをやってのけた――つまり役を演じることができた。
そんなパフォーマンスが可能になったのは、
いつもは隠れている極端な個性を表に出したからだ。
(中略)
しかしステージから離れると、率直に申し上げて、私はただのネズミでしかない。
それも、気分がコロコロ変わるネズミ。」

ロマンチストでリアリストな紳士のピートを象徴する言葉だ。


2段組464ページ/カラー口絵16ページという大ヴォリューム。
ハードカヴァーで物理的にも重み十分。
本体3800円も高くはない。


夢野久作・山本禾太郎・豊島与志雄『三人小説集 童貞』(書籍)

童貞


el zine誌の発行人・編集人でもある山路健二の十三舎の刊行物第三弾。
夢野久作、山本禾太郎、豊島与志雄のそれぞれの同名短篇小説「童貞」を一冊にまとめた本で、
それぞれ昭和5年(1930年)、大正15年(1926年)、大正14年(1925年)に発表された作品である。


3人共「童貞」がタイトルの小説で童貞特有の臭みが漂う文章がたまらない。
慟哭を感じるのだ。
といっても栗の花の匂いや情念がムンムンってわけではなく、
エロな表現もなくストイックな流れに貫かれているのは童貞の深層心理とも言える。
3人の作品すべて、
その過敏な肉体と精神ゆえに思わぬ方向に展開してしまうのが切なくリアルだ。
イギー・ポップの曲「Lust For Life」じゃないが、
たとえ死にたくなってもここには“性”よりも“生”への欲望をたたえられている。

三人の作品の中でぼくは
YBO2の同名の曲がきっかけで読んだ夢野久作の小説「ドグラマグラ」しか体験したことがない。
でも三人共あの時代ならではの言語感覚と漢字/カタカナの使い方の妙味に痺れるし、
“似せもの”(≒偽物)といった表記などの日本語の面白さや奥深さにあらためてびっくりする。
難読漢字にはフリガナが振られているが、
当時の文体だから現代の感覚ではスムーズとは言いがたい文章である。
けどスラスラ読める澱み無き喉ごしスッキリの合理的な文章は、
GAUZEの歌詞じゃないが“尖った角をヤスリで削”っているようなもんで味気ない。
絶えることのない葛藤と無限大にふくらんだ煩悩の震えが人間の肝。
特にそれが過剰に肥大化している童貞の息吹を奥ゆかしく生々しくたたえている。


全88ページのB6上製本である。
布張り上製本・黒箔押しの装幀・奥付に版元検印という
こだわりぬいた造本の黒の本体に白帯が巻かれ(各々の小説の一節を織り込んだデザインで3種類あり)、
それをさらに赤帯が巻かれた段ボール紙のDVDケース風の函に収納というフェティッシュな仕様だ。
レコードのいわゆるダイハード盤を思わせるパッケージだが、
むろんその手のものによくある超限定版にはしてない。
いつでもどこからでもwelcomeである。

小説の内容はもちろんのこと、
シンプルな色使いとデザインでふところに入り込むべく訴えかけられる視覚、
触れれば紙と印刷の凹凸を感じる触覚、
重厚な匂いを感じる嗅覚
ページをめくった時の聞こえる聴覚
読みながら欲望が達したら舐めるも良しで味覚、
・・・といった具合に五感で感じる“作品”である。
音楽でも映画でもそうだが、
表現は単なる情報伝達手段ではない。
漢字ひらがなカタカナの選択にしたって書き手の意思があるわけで、
“行間”にこそ作者の心が宿る。


“故きを温ねて新しきを知る”とは言わないが、
文章もパッケージも“デジタル合理主義”に抗うかの如し。
大勢に流されずに屹立する重み十分のボックスである。


★夢野久作・山本禾太郎・豊島与志雄『三人小説集 童貞』(十三舎)
全88ページ/税込1800円
http://juzasha.com/


海野十三『ペンで征く』(書籍)

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日本SFの父と呼ばれる作家の海野十三(Juza UNNO)が、
日米開戦直後の昭和17年1月に海軍報道班員として南方戦線に派遣された五ヶ月間の
従軍生活を綴った本。
海野は江戸川乱歩や横溝正史らと第一線で活躍して手塚治虫や松本零士にも影響を与えた人である。
これは週刊朝日などの数誌で発表したものをまとめて
昭和18年(1943年)12月に日本放送出版協会が刊行したもののリイシューだ。

本の発行者は、
DOLL誌で編集者を務めて現在活動休止中のファンジンEL ZINEでは発行人も務めている、
山路健二。
EL ZINE誌などで小出しにしていた嗜好性を形にするべく、
彼が立ち上げた十三舎の出版第一弾が『ペンで征く』である。
本全体の作りもこれまでの仕事を深化させた丁寧な仕上がりで、
スウェーデンのDISFEARのジャケットを思わせる“ロゴ”がデザインに使われているのも心憎い。


今も根は変わっていない戦前の日本の体質や精神性を反面教師にしていて
何かとあの時代の大日本帝国にこだわりを持つ、
ぼくみたいな人間はまず興味深く読めるはずだ。
ただし残酷な記述はなく、
戦争の悲劇みたいなものが比較的ストレートに描かれているのは、
ボーナス・トラックみたいに最後にプラスされた小説『機動部隊見ゆ』ぐらいだろう。
むろん“驚異の皇化首都”“異色の新皇民と宣撫の問題”といった見出しから想像できる内容も含むが、
“コテコテ”の檄文の類いとは一線を画す。
逆に言えばあの時代に強い関心がなくても引きつられる内容だ。

いつ命が失われるかわからない覚悟を決めた従軍とはいえ、
飢えと病気で苦しんだ南方の島々の日本兵の物語とは違って悲壮感や緊迫感はあまりない。
食生活にもあまり不自由はしてない。
ただし“闘う相手は敵兵だけではない”わけで、
暑さや害虫/ネズミとの戦いがハンパでなかったようだ。
海野自身の従軍が終了したのも肺結核とデング熱で昭和17年5月に内地に送還されたからである。

もともと探偵小説や科学小説などの作家ということで一種のエンタテインメント性も内包し、
海野のキャラなのか軽妙な語り口が魅力だ。
一定の緊張感をキープしつつも飄々とした佇まいに覆われたファニーな筆致で、
“インキン氏”“水虫氏”という具合に痒みの元に敬意を表して笑い飛ばす造語も愉快である。
食べ物に関する詳細な記述が象徴するように生活感あふれる庶民肌なのだ。

海野が過ごした軍艦生活では軍隊特有の上下関係は希薄で上下一心一体の心地よい状態だったことや、
“見敵必戦”の英国海軍に対して日本のアティテュードは“求敵必滅”だったなど、
色々と発見が多い。
日本語や漢字の深さも再認識できる。
ほとんどがいわゆる商業誌で発表した文章だから滑らかな文で、
ときおり使われた難しい漢字にもフリガナが振られている。
と同時に当時の文体だから
ある意味英語の文章を読むスリルも味わえるのであった。


★書籍『ペンで征く』(十三舎)
288ページ。税込み1500円。
http://juzasha.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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