なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

映画『アバウト・レイ 16歳の決断』

アバウト・レイ メイン1(小)_convert_20171226185749


心も身体も男になると決断したトランスジェンダー(エル・ファニング)が主人公で、
シングルマザーの母親(ナオミ・ワッツ)やレズビアンの祖母(スーザン・サランドン)と繰り広げる物語。

16歳になり身も心も男の子として生きたいと決断したレイ。
医者から受け取ったホルモン治療についての資料を手渡された母親のマギーは、
「突然、“息子”を育てることになるなんて・・」と動揺を隠せない。
共に暮らすおばあちゃんのドリーもレイのことをイマイチ理解できないでいる。
一方で髪を短く切って身体を鍛え、
少しずつ“本当の自分”に近づいていくことで生き生きしてくるレイ。
そんな姿を見てマギーは意を決して“治療”の同意書のサインをもらうために、
何年も会っていない別れた夫に会いに行くが、
そこでまさかの“家族の秘密”が明らかになる。

十代のトランスジェンダーが中心になって話は進む。
でも実のところ、そういうことにまつわる差別や苦悩が映画の肝ではない。
映画の原題の『3 Generations』にリンクする↑の画像の3人を中心にした家族がテーマだ。
祖母も母親もいわゆる一般的な生き方をしていないが、
それでもレイの生き方をなかなか理解できないでいる。
“レズビアン”ということじゃダメなの?と祖母は思い、
父親が断定できなくなる16年前の行為で母親はレイを錯乱させてしまう。
そんな家族の理解と融和と敬愛の過程を描く。

いわゆる感動ものともいえるが、
『20センチュリー・ウーマン』で惚れ込んだ僕は
主演のエル・ファニングに尽きる。
もったいないほど髪をバッサリ切って今回の役どころのリアリティを五割り増しにして、
愛くるしく気合十分。
特に今回も彼女流の“ファック・ユー!”アティテュード炸裂シーンに痺れ、
胸が熱くなった。
2017年の映画『パーティで女の子に話しかけるには』で彼女の虜になった方も必見。


★映画『アバウト・レイ 16歳の決断』
2015年/92分/アメリカ
■公開表記:2017年2月3日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国ロードショー
■配給:ファントム・フィルム
■クレジット:© 2015 Big Beach, LLC. All Rights Reserved.
http://aboutray16-eiga.com/


映画『カンフー・ヨガ』

main_KFY_軽量


ジャッキー・チェンが主演の2017年の映画。
正月映画にピッタリだから絶好のタイミングでの日本公開になる。
監督・脚本は
『ポリス・ストーリー3』『レッド・ブロンクス』などのジャッキー作品でお馴染みのスタンリー・トン。
というわけで年末年始をぶっとばせ!とばかりに景気が良くて、
問答無用にエンターテインメントが炸裂するトゥー・マッチな冒険娯楽特大作だ。

sub1_KFY.jpg

1400年ほど前に天竺(現インド)と唐(現・中国)の間に起きた騒乱の末に消えた秘宝を探すべく、
考古学者でカンフーの達人のジャッキー・チェンが
考古学者でヨガの達人のインド美女らとともに旅を行なう。
謎の一味が秘宝を狙う中で御一行は、
中国、インド、アイスランド、アラブ首長国連邦(のドバイ)で奇想天外な珍道中を繰り広げていく。

ネタバレを避けるべく大筋だけを書いたが、
ストーリーをそのまま書こうとするのが難儀なほど文字どおり山あり谷ありのアドヴェンチャーだ。
観ている自分が行方不明になるほど展開が激しく緻密に練り上げられた脚本にもかかわらず、
わかりやすい作りが見事としか言うほかない。

sub3_KFY.jpg

予算などなどを贅沢に使ったがゆえの映画ではある。
スリルとサスペンスとアクションとコメディが一杯で、
ちょいホラーと健康的なお色気をまぶした映画の王道だ。
けどたとえお金がたっぷり使えたとしてもここまで練り上げられている映画はなかなかないし、
米国大メジャー映画に目立つゴージャスな洗練とは一線を画し、
いい意味で原始的な味わいなのである。

どこをお国巡りしようが、
キラキラギラギラキビキビした土地の空気感がスクリーンから湧き上がってくるほどの映像エナジーも
ハンパない。
いわゆる明るい暖色系はもちろんのこと、
寒色系の映像のシーンもアゲアゲなムード。
でも決して押しつけがましくならないところもエゴを削ぎ落した第一級の芸の証しだ。

sub4_KFY.jpg

少なくても僕が観た中ではジャッキー・チェン映画にハズレはない。
ジャッキーが考古学者を演じるから、
ベタな比較ながらやっぱり“ジャッキー・チェン版『インディ・ジョーンズ』”だが、
サービス精神旺盛なジャッキーはこの一つの映画で四つも五つもアドヴェンチャーを繰り広げる。

目が離せなくていい意味で長く感じ、
107分とは思えないほど濃密だ。
無駄がないからこそテンポも抜群だから一気に持っていく。
ドキュメンタリーものも含めてリズム感に欠ける映画はやっぱり大切なもの、
つまり人間の躍動が欠けている。
この映画はまさに“カンフー meets ヨガ”のパワーで躍っているし踊っている。
万が一、途中で一旦ノリについていけなくなってしまったとしても、
ちょっとした世界旅行気分になっている中でいつのまにか映画のノリにまた入り込んでいる自分に気づく。

sub5_KFY.jpg

もちろんジャッキー・チェン映画だから肉体を使った芸がたんまりである。
アイスランドでの“雪合戦”、インドでの大道芸、ドバイでのカー・チェイスなどなど、
まるでサーカスみたいに大人が子供心で繰り広げているみたいな調子だ。

でも“リアル”であることにこだわっている。

たとえばカー・チェイスのシーンの高級車の数々はドバイの超大金持ちの王室が提供し、
ドバイの市街地を閉鎖して撮影されたらしい。
アクション・シーンも本格的だが、
よくあるアメリカンな映画のパターンと一味違ってイイ感じで抜けていて、
さわやかなコメディ・テイストも健在。
けどどの場面も命懸けのスリルで戯れる。
狼、ライオン、ハイエナ、象などの動物たちが節目節目でチャーミングに登場し、
ジャッキーたちに絡んでいくところも美味しい。
ちなみに一番上の画像のシーンは本物のライオンを車の後部座席に載せて撮影したという。

sub2_KFY.jpg

ジャッキー得意の“格闘”シーンで血が流れない“魔法のテクニック”をはじめとして、
ありえないことでもありえることにしてしまうパワーがある。
撮影の工夫と編集力と見せ方といった技術面に加え、
何もかも豪快に針が振り切れているからだ。
強引な“ジャッキー節”によって、
ラストもこれで納得させてしまう理屈を超越した力がある。
なせならこれは“ジャッキー・チェン meets ボリウッド”な映画だから。

終盤にジャッキーがつぶやく金言も天晴である。


★映画『カンフー・ヨガ』
原題:Kung Fu Yoga/中国・インド/2017年/107分
12.22〔FRI〕 全国ロードショー。
http://kungfuyoga.jp/


映画『わたしは、幸福(フェリシテ)』

◎メイン_フェリシテ_convert_20171129184417


アフリカ西部にルーツを持つ1972年フランス生まれのアラン・ゴミス監督・脚本の2017年の作品。
「闘うことと受け入れること」というリアルなテーマに貫かれた新時代の名作と言い切れる映画だ。

アフリカ大陸中部のコンゴ民主共和国(旧ザイール、以下コンゴと省略)の首都キンシャサを舞台に、
歌手でもあるシングルマザーのパワフルかつデリケイトな生きっぷりを、
ストレートかつミステリアスな手法と音楽で心象風景をゆっくりと深く描き出す。
監督の周りの人間の経験がヒントになっている映画らしいが、
心を強くもって人と人とのつながりを大切にしなければ生きられない日常を刻み映し出していく。

◎サブ2_フェリシテ_convert_20171129184300

フランス語で“幸福”という意味の名前を付けられた歌手のフェリシテは
バーで歌いながら女手ひとつで息子を育てている。
ある日、家の冷蔵庫が壊れて修理屋さんを呼んだところ、
家に来たのはバーの常連で“チャラ男”ながらフェリシテが本命らしきタブーという男だった。
同じ日に一人息子のサモがバイクの交通事故で脚に重傷を負い、
医者から「前払いでないと息子さんの手術はできない」と言われたフェリシテのために、
タブーやバンド・メンバーなどの仲間が協力してくれるもお金はまったく足らず。
簡単にだまされるほど人が良く、それでいて誇り高いフェリシテも、
息子の手術代を集めるために頭を下げることを決意し、
親族や別れた夫、以前お金を貸した男女、しまいには見ず知らずの金持ちのボスも訪ねる。

例によってネタバレを避けるために物語の序盤までの流れを大まかに書いてみた。

◎サブ1_フェリシテ_convert_20171129184137

息子に対する母親愛や自立した女性の生き様云々の一種のフェミニズム、
コンゴの政治/社会の歪みも見て取れなくもない。
でもそういうことが映画の肝ではない。
特定の地域にしか通用しない作品ではなく普遍的な人間ドラマなのだ。

とにかくフェリシテの意識の流れがていねいに描かれている。
快活精力的で息子のために奔走する前半と打って変わり、
後半のフェリシテは心が折れたかのようになり、
張りつめていた糸が切れたかのようになり、
以前みたいにバーで歌おうと思っても声が出なくなる。
意気消沈した息子と共振したかのように。

話の筋はわかりやすいが、
最近の多くの映画みたいにただストーリーを追うだけには終わらない。
まるで目に映らない大切なものを炙り出していくような作りに舌を巻くばかりで、
物語を音声/音楽と映像がふくらませる映画でにしかできない表現にじわじわ圧倒されていく。

◎サブ6_フェリシテ_convert_20171129184400

単なるBGMとは別次元で音楽が大切な役割をナチュラルに担っている。
その一つはカサイ州のバンドであるKASAI ALL STARSの演奏で、
フェリシテがバーで歌う時のバック・バンドも務めるだけに序盤から頻繁に登場し、
15~20人ほどの大所帯で原始的なほど熱くエネルギッシュなプレイを繰り広げる。
一方でベルギーなどの植民地だったということもあってコンゴの宗教の中心がキリスト教だから、
讃美歌みたいな曲を響かせるグループの映像が後半にときおり挟み込まれる。
彼女が参加してないから後者のオーケストラや合唱団は一種のシンボリックなイメージ映像だが、
対照的な音楽が広がるどちらの場面もフェリシテがおのれを解き放とうとしているシーンに見える。

映像の方も対照的なシンボリック・イメージを絶妙にブレンドしている。
フェリシテが歌う猥雑なバーをはじめとする街や彼女の住み家などが映画の大半を占めるが、
フェリシテが森や湖畔みたいな場所を夜中や早朝に彷徨うシーンが後半にときおり挟み込まれる。
後者は妄想や幻想のように映るが、
両者の映像のコントラストがフェリシテの心模様をはじめとする“俗と聖”を象徴しているみたいなのだ。
撮影時の露出オーバーっぽく白が飛んだ映像で映し出される街の光景や、
ちょっとした風景、家具などの映像を短時間挿入しているのも無意味に見えてシンボリックである。
生活臭ムンムンの映画でありつつスノッブな意味合いとは違う本質的なアートも感じさせる映画なのだ。

◎サブ5_フェリシテjpg_convert_20171129184341

人間臭い映画であると同時に、
研ぎ澄まされていく人間の木漏れ日のような輝きがじわじわと心に染みてくる映画だ。
コンゴ生まれの俳優たちが映画の中核を成す。
みんな“ダシ”の効いた愛すべき好演である。

特にフェリシテ役の女優ヴェロ・ツァンダ・ベヤは初の映画出演を体当たりで挑み、
パワフルかつ繊細な演技で観る者の目をほんと離さない。
さすがに歌っている時の声は
ウルトラ・パワフルなKASAI ALL STARSのシンガーのヴォーカルが使われているそうだが、
“吹き替え”であることがわからないほどの演技力をライヴ・シーンでも発揮。
パワフル&デリケイト、
ホット&クール、
濃く、そして淡く、
サッパリした気性の女性を演じ切っている。

◎サブ4_フェリシテ_convert_20171129184321

人物のアップが多い。
ぐいぐい躊躇せずにカメラが迫っている、
外見だけでなく一人一人の内面にも向き合って迫っている。
“生の人間”を映し出している
ポイントを押さえた必要最小限のセリフで息を吹き込む映画だから人物の表情も大切で、
あまり表情を変えない諦観めいた顔は“寡黙ゆえに雄弁”で息を呑むほどだ。

フェリシテが“ボーイフレンド”と繰り広げる終盤の“ラヴ・シーン”とトークもたまらない。
ほとんど笑顔のなかったフェリシテの表情の“ゆるみ”にドキッ!とする。
交通事故に遭ってから笑顔がなくて話すことも食べることも半ば拒絶していた息子も揺り動かす。
フェリシテの新しい“家族”が“無言のトーク”を楽しんでいる様子は微笑ましくて深く静かに胸を打つ。

序盤で修理を頼んだ冷蔵庫が終盤に息を吹き返して鳴るファンのブーン!って音が“祝砲”に聞こえる。
なんてことのないそういう音こそ幸福の響きであり、
“福音”にも聞こえる。

まさにグレイト。


映画『わたしは、幸福(フェリシテ)『わたしは、幸福(フェリシテ)』

原題:Félicité |製作年:2017年|製作国:フランス、セネガル、ベルギー、ドイツ、レバノン
129分| DCP |1.66|5.1ch |カラー:リンガラ語&チルバ語&フランス語
© ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS - KATUH STUDIO - SCHORTCUT FILMS / 2017
12月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式HP:www.moviola.jp/felicite/


映画『早春』[デジタル・リマスター版](イエジー・スコリモフスキ監督の1970年作品)

ポーランド映画祭2017


ポーランド生まれの鬼才イエジー・スコリモフスキ監督の1970年の映画『早春』を試写会で観てきた。
ドイツのクラウト・ロックを代表するCANの音楽が絶妙に使われている点も含めて、
何もかもがサイコーすぎる映画だ。

日本では1972年以来劇場公開されてなくてDVD等のソフト化もされてない状況だったが、
このたび[デジタル・リマスター版]で劇場上映される。
“ポーランド映画祭2017”で2回先行公開され(11月26日の上映後には監督のトークも予定)、
2018年の1月には東京YEBISU GARDEN CINEMA他での公開も決定している。
もちろん会話の妙味もバッチリのナイス!な日本語字幕付だ。
[デジタル・リマスター版]ってことで、
撮影地である英国・ロンドンの冷気とドイツ・ミュンヘンの猥雑な匂いが立ち込めた映像色にも酔える。


15歳の少年マイク(ジョン・モルダー=ブラウン[『初恋』他])と
年上の美女スーザン(ジェーン・アッシャー[『アルフィー』他])が繰り広げる青春映画。
基本的にはエッチなサービス無しの個室公衆浴場に勤め始め、
巨体おばちゃんの客から誘惑されるなどハプニングに出くわしつつ新人マイクは毎日が楽しい。
もてあそばれながらも可愛がってもらっている職場の先輩スーザンと一緒に仕事ができるからだ。
憧れの存在がいつのまにかラヴの気持ちに進んでいたマイクだが、
スーザンのヤリマン疑惑と婚約者の存在にショックを受けて“犯罪街道”を“迷走”する。

早春
©2011 Bavaria Media.All rights reserved.

衝撃作多発のスコリモフスキ作品の中で一番入り込みやすい映画だが、
ユーモアでは1966年の『バリエラ』
政治色を払拭した点では1967年の『出発』の流れを感じさせつつ、
スコリモフスキならではの可笑しみと毒が五割り増しで切なさも加速している。
スーザンの男殺しの小悪魔ぶりに痺れっぱなしだし、
マイクも『アンナと過ごした4日間』につながる真面目男のズッコケぶりで素敵すぎるのだ。
日本のドリフターズのテレビ番組『ドリフ大爆笑』を思い出すほどの素朴なギャグだが、
くだけた馬鹿馬鹿しい行動や原始的な“仕掛け”も真剣そのものの証しであること示すべく、
いい意味でアートに昇華したところに感嘆するのであった。

近作でも味わえるこっそりしたスコリモフスキ特有の覗き見的なエロ風味と変態テイストは、
この作品から始まったといっても過言ではない。
でも性欲ギンギンの年頃の男の子が年上の女性に抱く思いを描いているにしても、
ギラギラしてなくて奥ゆかしくまっすぐな佇まいが新鮮だしえらくリアリティを感じる。
見たいところにレンズを向けてフェチ心の裏筋をくすぐるカメラ・アングルも心憎いばかりだ。

挿入音楽は英国のキャット・スティーヴンスが歌う主題歌もグラム・ロック風で良いが、
CANの曲が流れてきた瞬間、
遂にあの「Mother Sky」をスクリーンで体験できた!と今回の試写会で僕は興奮を禁じ得なかった。
音楽の挿入が断片的かつ必要最小限で最高の効果を上げているところもポイントの映画だが、
CANの映像作品提供曲アルバム『Soundtracks』(1970年)収録の15分近いヴァージョンではないにしろ、
「Mother Sky」はたっぷり流される。
ゆるく怪しくいかがわしくふわふわ疾走する曲が浮ついたシーンにジャストで盛り上げているのだ。

『Deep End』という原題がピッタリの底無し沼のエンディング・シーンも言うこと無し。
大スイセン。


★映画『早春』[デジタル・リマスター版]
1970年|90分|カラー|デジタル・リマスター
ポーランド映画祭2017で11/26(日)10:15~と12/1(金)11:00~に公開
http://www.polandfilmfes.com/
2018年1月 YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開


映画『Mr.Long/ミスター・ロン』

ミスター・ロン チラシ


『蟹工船』(2009年)、『うさぎドロップ』(2011年)、『Miss ZOMBIE』(2013年)、
『天の茶助』(2015年)などで知られるSABUが監督/脚本の映画。
台湾の殺し屋と日本の田舎町の人々との間で非情と人情がまぐわい、
昭和時代の日本のホームドラマとヤクザ映画、
あるいは浪花節の演歌と妥協無きハードコアをミックスしたかの如き人間ドラマの佳作だ。


台湾の殺し屋のロン(チャン・チェン)は六本木の台湾マフィアを殺す仕事を請け負うも失敗し、
日本のヤクザに捕らえられて傷を負ってトドメを刺される寸前に逃走。
行き着いた先は北関東の田舎町だった。

しばしロンがその地の廃屋を住み家にしようとしていたところ、
食料として無造作に野菜を置いていった無口な8歳の少年ジュン(バイ・ルンイン)との交流が始まり、
日本のヤクザにシャブ漬けにされたジュンの母親の台湾人リリー(イレブン・ヤオ)を手助け。
まもなくジュンに作っていた汁物などでロンの料理の達人ぶりが素朴な周辺住人たちに知れわたり、
みんなから生活をサポートされていく中でロンは牛肉麺の屋台を始めることになる。
屋台を手伝うジュンとの交流が深まる中でロンはリリーとの接触も増えていき、
周囲の住人たちのノリのいい気遣いもあって三人の間で一つの家族のようなムードが生まれつつあった。

例によってネタバレ最小限で物語の途中までの大筋を書いてみた。

メイン

いい意味で洗練されてない粗削りの映像によって場の匂いや空気感が生々しく伝わってくる。
アナログ感が溢れる映像がさりげなく登場人物たちの心模様と共振し、
なかなか晴れることのない曇天みたいな映像色が続く中、
中盤から後半にかけてのわずかな“晴れ間”みたいな明るさの映像がまぶしい。

映画の中の自動車のナンバープレートから察するに足利市をはじめとする栃木県が主なロケ地のようだ。
いわゆる限界集落やシャッター街ではないにしろ、
しばしロンが住むことにした家屋や彼と交流を深める母子の生活状態はなかなか強烈だが、
いわゆる底辺の人々の状況を声高にメッセージする映画ではない。
いくら都市部でインテリやサブカルが満ち足りた顔で得意げに調子のいい政治話を吐こうが、
合理主義とは別の次元で暮らすこの映画の人たちには何も響かない。
だが右も左もヘッタクレもない生活環境の中で、
人と人とのつながりを大切にして暮らす人たちのリアルな“生”は観る者一人一人の心に響く。

SABU監督ならではの人間臭い描写に飲み込まれる。
セックスのシーンも死のシーンもモロに長時間見せないことで心臓を射抜くことをよくわかっている。
映画の肝を醸し出す調度品や事物などのアイテムも見せ方も上手く、
ロンとジュンとサリーの手作りの茶碗は映画後半の命の象徴だから特に目を離さないでいただきたい。

サブ2

俳優陣の演技も自然体で素晴らしい。

主人公のロンは日本語がわからないということでほとんどしゃべらず、
無駄口叩かずにやることはやる一匹狼の“気”が滲み出ている。
いつ敵討ちされるかわからず24時間気が抜けないハードボイルドな佇まいの中で、
笑顔を見せない無表情の顔が中盤にうっすらと和らいでいくあたりも名演だ。

ロンとの交流でこの映画を進めていく子役のジュンも朴訥としたいい味を出している。
育った環境ゆえかPTSD(心的外傷後ストレス障害)が感じられるほどやはり寡黙で笑わないが、
これまた中盤以降の表情を見ているとホッとする。
ロンをミステリアスな存在にしておく一方で、
この映画のキー・パーソンだからこそジュンの母親リリーは過去を明かすことに時間が割かれているが、
情感豊かで艶っぽく時に悲痛な演技に息を呑みっぱなしだ。

ロンの周辺の日本の住民たちも何気にリズミカルで好演極まりない。
ロンを詮索もよそ者扱いもせず困ってそうだと思ったらイケイケの真心で接しで手を差し伸べ、
おせっかいと一線を画す“お世話様”の心意気の連係プレイでロンを手助けして“更生”。
正直でナチュラルだから納得できて人間ってもんをもっと信じてみたくなるほどの力がある。
対象的に生きてる価値無し!のヤクザの存在感が観る者の憎しみを燃え上がらせる。
とりわけリリーにたかるまさに血も涙もないヤクザは観ていて本気で殺意を抱くほどの演技力だ。

サブ1

手加減しないSABU監督の“脚本力”も特筆したい。

次々に繰り出される様々な落差がダイナミズムを生んでいる。
心あたたまるシーンが続くと思ったら心が凍りつくシーンにいつの間にか転換。
崖っぷちから這い上がり、しあわせの光が見えてきたと思ったら、また地獄に、そして天国にみたいな、
サディスティックなまでの暗転ぶりで“もてあそぶ”ように見事なほどこっちの感情を揺さぶる。
観ていて心臓の高鳴りが聞こえてくるほどの容赦無き物語の流れに身震いする。

どちらか死ぬまで苦しみが続くのなら相手を殺すか自分が首を吊るしかない人がいる。
話し合いの余裕がないほど一気に追い詰められて殺すか殺されるかしかない人がいる。
憎しみが一気に沸点を越えた人間の神々しさも見る。

終盤の加速度に絶句する。
一瞬で血の気が失せる“とある光景”直後の“殺陣”のシーンは、
取り巻く情景を映し出すことでさらに背筋が凍る。
「もうかんべんしてやってくれ!」とボクシングのセコンドみたいにタオルを投げ込みたくなるほど、
いたたまれない展開である。
だからこそラスト・シーンは救いと断言したい。

オススメ。


★映画『Mr.Long/ミスター・ロン』
2017年/日本・香港・台湾・ドイツ合作/129分
出演者:チャン・チェン、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、
監督/脚本:SABU『天の茶助』
製作:LiVEMAX FILM LDH pictures BLK2 Pictures 
高雄市文化基金會 Rapid Eye Movies
配給:HIGH BROW CINEMA
映倫:PG-12
クレジット表記:Ⓒ2017 LiVEMAX FILM / HIGH BROW CINEMA
公開表記:12月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://mr-long.jp/


« 新しい日記に行く  | HOME |  古い日記に行く »

文字サイズの変更

プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (10)
HEAVY ROCK (247)
JOB/WORK (303)
映画 (273)
PUNK ROCK/HARDCORE (0)
METAL (46)
METAL/HARDCORE (48)
PUNK/HARDCORE (426)
EXTREME METAL (131)
UNDERGROUND? (101)
ALTERNATIVE ROCK/NEW WAVE (129)
FEMALE SINGER (43)
POPULAR MUSIC (30)
ROCK (86)
本 (9)

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

FC2Ad

Template by たけやん