なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

佐藤幸雄とわたしたち『わたしたち』

佐藤幸雄


すきすきスウィッチを率いたことで知られ、
他にも80年代初頭からPUNGO、くじら、、絶望の友、ソロなどで活動してきたアーティストの、
佐藤幸雄(ヴォーカル、ギター)が2016年に活動を始めたユニットのファースト・アルバム。
他のメンバーは、
サカナでドラムを叩いていたことで知られるPOP鈴木(ドラムス、コーラス)と、
シンガーソングライターとしてだけでなく多彩な活動を続けている柴草玲(ピアノ、コーラス)だ。

鈴木は絶望の友でも佐藤と一緒に音楽をやっていた。
絶望の友は観たことがある。
たぶん90年代初頭のことだと思う。
積極的な考え方の力(bikkeがフロント・ウーマンだったラブジョイの前身バンド)が対バンで、
ライヴ会場が代々木のチョコレートシティだったことまで覚えているのは、
どういう歌だったかはっきり思い出せないとはいえまっすぐな歌が妙に印象に残ったからだ。

根がポップなすべての曲を佐藤が作詞作曲をしている。
序盤はギター弾き語りで曲を作っていったことがイメージできる歌ものユニットの佇まいだが、
鈴木も柴草もキャリアが長くミュージシャンシップも高いだけに、
ドラムとピアノとコーラスでフリー・フォームに曲をふくらませている。
それこそバンドと言ってもいいぐらいだ。

さりげなく熱いほど快活、
そして切ない。
歌詞カードでひらがなを多用しているのも納得の想像力をふくらませる歌である。
「繁殖と交尾のため?」「くるまにのって」「やかん」「むだ」「大東亜の在日人」「どちらかといえば」
「新国立競技場での観兵式」「名前はまだない」
という曲のタイトルからもユーモラスで鋭い言葉が想像できよう。
批評性もピリリと効いていてヘヴィな曲も聴き応え十分だ。

まったり飄々としているかと思えば勢い余って前のめりにもなる歌声はもちろんのこと、
粗削りのギターの響きがとても耳に残る。
知る人ぞ知る“場”である東京・神保町視聴室での録音により、
いい感じの生の音質に仕上がっている。

透けて見える凝った紙質のジャケット/歌詞カードや、
日本語の曲名とクレジットが英語で併記されているところも特筆したい。


★佐藤幸雄とわたしたち『わたしたち』(アルケミー ARCD-259)CD
約44分8曲入り。


IM KELLER(ヤマジカズヒデ×藤掛正隆)『Im Keller』

IM KELLER(ヤマジカズヒデ×藤掛正隆)


ヤマジカズヒデ(g/dip他)と
藤掛正隆(ds、エレクトロニクス/元ZENI GEVA~#9、現・渋さ知らズ他)によるユニット、
“イム・ケラー”のデビュー・アルバム。
2017年の8月15日に東京・中野でレコーディングした約66分7曲入りで、
13分前後の2曲と21分近くの曲も含むオール・インストのCDである。

ニューウェイヴ以降のフットワークの軽いポップな香りに包まれつつ、
真正のサイケデリック感に覆われている。

60年代のPINK FLOYDにクラウト・ロックとドゥーム・ロックの反復が混ざったようでもあるが、
ありがちなトランス・ミュージックのアプローチとは一線を画し、
長い曲でも、ゆっくりと、じっくりと、紡いでゆく。
と同時にヤマジがSTOOGESの「T.V. Eye」を好むのもうなずけるトーンで疾走し、
ON-Uレーベルのダブ感覚やジミ・ヘンドリックスにかするファンキー・ブルースもさりげなくブレンドし、
中近東亜細亜なマントラ・チューンも聴こえてくる。

いろっぽく、つやっぽく、コズミックに澄んだギターの中に、
ヤマジならではのフックのあるフレーズもさりげなく織り込まれる。
ひたすらマイペースな一方いざとなったら猛烈に押しの強い人だが、
おくゆかしく、ひかえめで、ゆったり疾走する音がまばゆい。

異種ミュージシャンのセッションのようで、
二人はNight of Music Explorersでプレイしている。
透明感を豪胆に放射するギターとまったりパワフルなドラムが織り成すマンダラ万華鏡。
悠々自適なヤマジの自由にさせたようなタイム感に覆われ、
男臭くも繊細な藤掛のビートが躍り、
せまっ苦しいシーンに縛られない“個”のミュージシャン同士ならではの静かなるダイナミズムを生む。
おだやかに、たおやかに、音が循環し、
内向きの世の空気を外に解き放つヒーリング・ロック・ミュージックの一枚。


★IM KELLER『Im Keller』(FULL DESIGN FDR-1037)CD
薄手のプラケース仕様。


愛のために死す(AINOTAMENISHIS)『エクリシス(XLISIS)』

愛のために死す


2004年の結成以来、
どこかのシーンに収まることなく東京拠点に独自の展開を続けている4人組のロック・バンド、
愛のために死す(AINOTAMENISHIS)の新作。

OMやONNAのリリースでも知られる米国のHOLY MOUNTAIN Recordsから
2007年に出したLP『Live '418』でレコード・デビューし、
同年にPSF Recordsのシリーズ・オムニバスCD『『Tokyo Flashback 6』に参加している。
2010年にGYUUNE CASSETTEから出したCD『部屋と夢』に続くアルバムである。


僕の知る限りNIRVANA解釈の最もリアルな“生もの”の作品だ。
彼らは10年以上前にNIRVANAの「About A Girl」をレコーディングしたこともあるし、
ドラムも含めて『Bleach』前後のNIRVANAを思い出すが、
むろんいかにものグランジーなスタイルとは別モノ。
歌詞も含めてNIRVANAの中に、
曲によっては語りも入るフリーキーなヴォーカリゼイションも含めてINUが混在し、
曲によっては『Y』の頃のThe POP GROUPが息をしているみたいな佇まいである。
何しろフラストレイションと葛藤がそのままのたいへんデリケイトなサウンドなのだ。

さりげなくフックを設けた曲に緩急のパートが織り交ぜられ、
ところによってはシンセサイザーやスティール・ギターが彩りを添え、
まろやかなムードからソリッドなパンク、
研ぎ澄まされたシスコ・サウンド的なサイケデリックの感覚も息づく。
曲もさることながら音そのものが混沌としていて、
ギターの軋みからもヒリヒリピリピリしたリリシズムが滲み出している。
音と共振して張り裂ける思いを炸裂させつつ押し殺すようなヴォーカルは、
打ちひしがれた激情で膨張している。
町田町蔵(not 町田康)も思い出する文系センスの言葉も観念を突き抜けてリアルに迫る。

10年以上活動しているにもかかわらず気負いが失せずに“青い表現”のアルバムだ。
変わらないということは本気ということでもある。
どこか不揃いでゴツゴツしてしている。
GAUZEのセカンド・アルバムのタイトル『Equalizing Distort』じゃないが、
なんでもかんでも合理主義で人間らしい歪みやノイズですら均一化されている昨今、
とても人間を感じる一枚。


★愛のために死す『エクリシス』(RECONQUISTA RRCD-001)CD
丁寧な作りの六つ折りポスター・ジャケット仕様の約41分8曲入り。


カニコーセン『ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい』

カニコーセン


“播州スラッジフォーク”を標榜して
兵庫県加古川市を拠点に2010年から多彩かつ精力的なリアルDIY活動を続ける、
奇才男性のユニットのカニコーセンの5作目。
ベース演奏にゲストを招いている以外は、
作詞作曲歌演奏すべてのパフォーマンスを一人でやっている。
ギターの弾き語りが基本ながらバンドにも聞こえる手の込んだ作りで“生”の表現を繰り広げる。


70~80年代の“日本語フォーク/ロック”の2017年アップデート版みたいなアルバムだ。
シティ・ポップスやブルーハーツの替え歌みたいな曲もやってのける。
加藤和彦と北山修の「あの素晴しい愛をもう一度」をはじめとして色々な曲を引用&応用しているが、
そういったものもオマージュに聞こえる。

“播州スラッジフォーク”に偽りない曲もやっているが、
穏やかなトーンで進める曲が大半を占める。
ただ全曲ポップで取っつきやすいとはいえ、
毒やらなにやら盛っているスラッジーな歌オンリー。
歌詞の世界観がイメージできそうだから参考までに曲名を記しておく。

「カレーパン怖い」「お墓難民電話相談室」「ちんぽのロックンロール」「キスしたい」
「ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい」「どこでもディスコ」
「ミルクマン・オブ・ヒューマン・サッドネス」「浜辺のくらし」「嫉妬のハナモゲラ」「じゃあね」
「サンデードライブ」「エンド・オブ・ザ・ワールド」「墓をください」

イギー・ポップギターウルフが言ってきているようにタイトルがまず大事だ。
そもそもアルバム・タイトルからして救いようがないほどクレイジーである。
ブックレットの画から察するに実在アナウンサーの人を指しているとも解釈できるが、
同名曲の歌詞だと彼女は一種のアイコンみたいな存在で、
その曲名のフレーズは本人の気持ちとは限らず呪文のような言葉らしい(セルフ・ライナー参照)。

とはいえ、これまで僕が聴いたカニコーセンの中でもトップクラスのオゲレツ度。
妻子持ちなのに大丈夫か?とちょっぴり心配もするが、
奥さんはこのアルバムの制作に協力しているから“公認”&黙認と思われる。
そんでもって家族のために働く男の悲哀の歌もきちっと歌っている。
けどなんだかんだでしあわせとも勝手に推測できる。
飄々と突き放した歌い口も奏功し、
しあわせ自慢に聴こえないのがいい。

とにかく緻密パラノイアな凝ったプロデュースが施されていて飽きさせない。
独り言一人芝居みたいなパートもあるし、
本来の意味での芸人の表現だ。
ぼやきも山ほど芸にしているが、
恨み情念ドロドロってやつじゃなく、
やっぱりポップに突き抜けている。
だからこそピリッと甘辛いスパイスの効いた歌が活き、
救われるアルバムだ。

アルバム・タイトルのエピソードとリンクする公衆便所ジャケットやブックレットの画は、
BLACK FLAGやMINUTEMENやOFF!でお馴染みのレイモンド・ペティボンを思い出す
(もっと近いのがDRIVE LIKE JEHUの『Yank Crime』のジャケット)。
そのへんのバンドを聴いているとは思えないが、
やはりスラッジーな心根が共振していると思わずにはいられない一枚。


★カニコーセン『ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい』(No Label, No Number)CD
約44分13トラック入り。
ほぼすべての歌詞が載ってセルフ・ライナーを含む解説も載った24ページも紙ジャケットも、
手作り感が溢れて味のある丁寧な仕上がりだ。
裏ジャケット右隅の“500円也”というクレジットもうれしい。
https://www.kanikoosen.com/


燻裕理『よいこデイズ』

燻裕理『よいこデイズ』


70年代に頭脳警察や裸のラリーズなどでプレイしていた
兵庫県の姫路拠点のヒロシNarこと燻裕理(くんゆうり)による新作。

90年代に入ってニプリッツやポートカスで活動し、
2000年代の半ばからソロ・アルバムをガンガンどんどん出していき、
これが11作目だ。
近作同様に神戸のBLONDnewHALFのCOZがドラムを担当している以外は、
歌もギターもベースもキーボードも一人でやっている。


いい意味で相変わらずである。
CDを再生して1秒でぐにゃゅぅ~っとした燻裕理の脱力アシッドの香りに包まれ、
ポップな“真性”サイケデリック・ロックンロールに身も心もヤられる。
R&Bもブルースもヘヴィ・ロックもクラウト・ロックも祭囃子も、
くだけたまんま原型なく“躁”天然色で鳴っている。

ギターは変化球も消える魔球もなんでもござれでノーコンのようでストライクにバッチリだし、
ベースも脱臼しているようでリズムがしっかりしているし、
キーボードがなかなか活躍している。

あくまでも悠々自適。
せっかちなのか早く歌いたいのか歌に入るまでの“手続き”が面倒くさいのか曲のイントロが短く、
曲自体も短めで唐突に終わる。

演奏も何もかも、ちょい千鳥足。
だが元気である。
今年の12月に65歳になるのも恐るべしな今回の歌は、
アルバム・タイトルどおりに燻裕理が“よいこだった時代”を綴ったものと勝手に解釈できる。

いつになくオゲレツな言葉やエッチネタで“責めて”くる。
といっても無邪気な小学生がおもしろがって「うんこうんこ」と連発するレベルで、
放送禁止用語や淫行条例には<ほとんど>引っかかってないのも天真爛漫小学生レベルで、
セックスってことを知ったばかりの早熟やんちゃ小学生レベルなのも楽しい。

意味不明のお茶目な言葉が混ぜこぜなのも燻裕理流。
“キンタマ”を連発しながら「ロマンスを君に」という素敵なラヴソングに仕立てるのも燻裕理流。
森進一も山下たつろうも歌い込み、
小学一年生の男の子から中学一年生の女の子までになりきってもいる。

愛嬌たんまりで調子っぱずれ紙一重のヴォーカルはフリークアウトした小学生みたいだし、
よっぱらいのオッサンが子供時代に戻って妄想を歌っているようでもある。
どんな曲でもヴォーカルのトーンがほとんど変わらないのはルー・リードモリッシーと一緒だ。

B型射手座という根っからの自由人で怖いもの無し。
あっぱれな一枚。


★燻裕理『よいこデイズ』(Gyuune Cassette CD95-70)CD
約35分16曲入り。
漢字をよく知っている中学生が書いたみたいな書体で読みやく歌詞が載った8ページのブックレットも
チャーミングだ。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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