なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

死神『共喰いの未明』

死神『共喰いの未明


2004年から東京拠点に活動している男性アーティストのサード・アルバム。
唄、ギター、打楽器、作詞、作曲、編曲を一人で担当したCDだ。

デリケイトな弦の震えをたたえたギター弾き語りでほぼ全編唄い倒し、
じっくり、じっくり、長めの曲を歌い進めていく。
フォークと言えそうな音楽スタイルだが、
奇をてらったプレイをしなくてもいわゆるフォークのスタイルから微妙に逸脱し、
“アヴァン・フォーク”とも呼びたくなる長めの曲の短編映画6篇で構成したかのような、
ある種のプログレのようにドラマチックなCDだ。

演歌ではないが、
歌声は“艶歌”であり、
歌の内容は“炎歌”であり“怨歌”であり“厭歌”でもある。
詠唱にも聞こえる。
ただ、ベタと言えるほど“ネガティヴなイメージの言葉”も多用するとはいえ、
いかにもの日本情緒ベッタリの歌とは一線を画し、
歌詞も含めて硬質な表現が光る。

ところによっては早川義夫を思い出すが、
もっとまっすぐな発声だ。
朗吟と言ってもいいほどである。
“死神”という名ゆえにキワモノのイメージも湧くが、
ピュアな喉の震えで強靭。
このCDは卑屈を突き抜ける。
印象に残るメロディ・ラインのソングライティングも特筆すべきで、
音も美しい。

ヒトという“種”に真正面から向き合っているがゆえの地獄絵図の“共喰いラヴソング”である。


★死神『共喰いの未明』(伊丹社 ITMS-965)CD
丁子紅子が担当したジャケット画の約40分5曲入り。


泉邦宏『近未来原始人 イズミンゴス』

泉邦宏『近未来原始人 イズミンゴス』


渋さ知らズに参加してきたことで知られる多芸多作な音楽家、
泉邦宏のニュー・アルバム。

作品ごとに様々な顔を見せつつ、
ソロ活動で増えている歌ものはもちろんのこと、
たとえ前衛っぽいことをしても毎度人なつこくて大衆食堂の味わいは変わってない。
今回も奇才ぶりを発揮し、
音の重ねを駆使した独演でミックスもマスタリングも一人でやって仕上げている。

珍しく“電気楽器”を使いまくっているらしいが、
もちろん泉のメイン楽器のサックスも活躍。
とはいえ何の楽器等を使っているのはわからない。
嬌声みたいなヴォイスからサックスの艶やかな演奏で背後に怪しい音が踊る不気味な曲で始まり、
人を食ったヴォイス・パフォーマンスが続き、
電子音楽のような音でフリー・ジャズをおっぱじめ、
“宇宙ヴォイス”によるアカペラも繰り出す。
ぶよぶよぐにょぐにょのラテン風の弾力プリミティヴ・ビートが鳴り、
電子音が転がり、
サックスが哀愁の映画音楽みたいな曲あり、
サックスが流浪の民みたいなイメージでサン・ラーも思い出す曲あり。
最後の最後は生活雑音のような音がラジオの混信みたいな音声になって混沌とする。

時にシリアス、
だが微笑ましい“泉邦宏節”に磨きがかかっている
冗談のようで本気であり、
平和への“いのり”と“レクイエム”が聞こえてくる。
「イズミンゴス」「唱和」「交信」「みんみん」「しゅわしゅわ」「風」「ぶるぶる」「探査船ラスタ号」
「ぶーぶー」「いのり」「ハレハレ」「らりむー」「レクイエム」「生活」といった、
曲名からもアルバムの情景が目に浮かんでくる。

まさにジャケット画がハマった近未来と原始の邂逅ミュージック。
タイトルどおりの架空の映画のサントラそのものの怪作、
いや快作だ。


★泉邦宏『近未来原始人 イズミンゴス』(キタカラ K-28)CD
内側にセルフライナーが載った二つ折りのペーパー・スリーヴ仕様の約67分14曲入り。


周尾淳一『The Third』

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“三島由紀夫、ジム・トンプスン、稲垣足穂(以上、作家)、
柳町光男、アレハンドロ・ホドロフスキー、アンドレイ・タルコフスキー、松本俊夫(以上、映画監督)、
コニー・プランク、SUICIDE、ジム・フィータス、エイフィックス・ツイン、ヤニス・クセナキス、
デイヴィッド・チュードア、ハリー・ベルトイア(以上、いわゆる音楽家)に捧げる。“

本人によるそんな言葉がハッタリではない作品が日本の東北からリリースされている。
岩手県花巻市を拠点にしている周尾淳一(Schuo Jun’ichi)の6枚組CD-Rだ。

『山海経』(2008年)と『Variation V』(2009年)に続く周尾の3作目で、
もともと一般的なディストリビューションではなく、
“ディスクコンサート”会場で希望者のリクエストにより1~6枚コピーして販売する音源発表を
2015年から行なってきた作品である。
極一部の人にしか聴かれないのは惜しいと思っていたが、
このたび6枚セットでインターネットを通じても入手可能になったから紹介する。


再生して1秒で場の空気が一変する。

パッケージは簡素でCD-Rというフォーマットながら、
安易な音の作りとは対極の執念すら感じさせる緻密な仕上がりだ。
制作に用いた機材や手法等は不明ながら音の方も手作りの様相で、
デリケイト極まりない“気”が静かに熱くみなぎる。
一度耳にしたら一生忘れないほど彫りが深く研ぎ澄まされた我流の音像に聴き惚れ、
音の中に引き込み吸い込んでいくエネルギッシュなうねりに目が覚める。


一般的な感覚だとノイズ(・ミュージック)といえばノイズ(・ミュージック)なのかもしれないが、
THROBBING GRISTLEのようなインダストリアル・ノイズとも
日本伝統のハーシュ・ノイズとも一線を画す。
アンビエントもドローンもミニマル・ミュージックもすべて飲み込み、
“雑音”というより、
響きのひとつひとつをていねいに磨き上げて研ぎ澄ました音の“群像”である。
これぞまさに“音響彫刻”だ。
だがこの金属質の音は決してひとつの所に留まっていない。
“精”を吹き込まれて自由な生命体として動いている。

全トラックが違う。
しゃべくっているようでもあり、
無数のヒダの動きもあり、
フリー・ジャズっぽくもあり、
おちゃめでポップでもある。
ただ音声のサンプリングのようなものも聞こえてくる一方で、
静かなパートも含み、
ヘヴィにも轟き、
持続低音に圧倒され、
鈍く光る音の層の美しさに息を呑む。

金属を使って音を放射させるライヴをイメージするサウンドの広がりもあり、
細かい音の粒の渦が炉を成した鉱物みたいであり、
音圧も十分。
インプロヴィゼイションのようで一つの流れを成すように“作曲”され、
“メロディ”も“リズム”も密かに息づく聞かせどころを設けた構成力も見事。
動きが克明に見えてくる立体的で生々しい音の仕上がりも驚愕だ。

何より音に芯がある。
だから折れることはない。
飛ばされて覚醒される380分近くに及ぶ力作だ。


★周尾淳一『The Third』(No Label Shu01~Shu06)6CD-R
Disk-1は約74分16秒3トラック入り、
Disk-2は約60分2トラック入り、
Disk-3は約53分3トラック入り、
Disk-4は約77分3トラック入り、
Disk-5は約48分1トラック入り、
Disk-6は約66分1トラック入り。
ディスクノート盛岡で入手可能だ。
http://www.morioka-record.com/


Night of Music Explorers『NoME Ⅱ』

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2013年から始まったライヴ企画名を冠した“バンド”による、
『Night of Music Explorers』以来の2年3ヵ月ぶりのセカンド。

今回プレイしているのは以下の6人だ。
●ヤマジカズヒデ(g/元DIP THE FLAG、現dipほか)、
●ヒゴヒロシ(b/元3/3、MIRRORS、CHANCE OPERATION、FRICTION、
現・渋さ知らズ、MAJIKA~NAHARUほか)、
●藤掛正隆(ds/元ZENI GEVA、#9、現・渋さ知らズ、edge、MAJIKA~NAHARUほか)
という前作の全曲で演奏していたミュージシャンの他、
●森川誠一郎(vo、サウンド・エフェクツ/ZOA、現・血と雫ほか)、
●ラピス(g/元FRICTION、現MAJIKA~NAHARU、LAPIZ TRIOほか)、
●秋山勝彦(シンセサイザー、マラカス/元P-MODEL、HERE IS EDEN、現AFTER THE RAIN)
という前作の数曲で演奏していたミュージャンに加え、
●宙也(vo/ALLERGY、De-LAX、LOOPUSほか)
も参加している。

今回の音源は、
2015年と2016年に東京・高円寺のライヴ・ハウスであるショーボートで行なったライヴからの抜粋だ。
基本的にインプロヴゼイションらしく綱渡りの音のやり取りが収められているが、
大半の曲はソングライターのクレジットが入っており、
藤掛が編集とミックスを行なって流れを付けた“6曲入り”のアルバムとしてまとめられている。

個性の衝突というよりは調和を考慮したようなプレイだ。
STOOGESっぽい曲あり、
初期SOUNDGARDENっぽい曲ありだが、
デュエットも聴かせる宙也と森川のヴォーカル入りの4曲は日本のポスト・パンクのテイストを感じる。
ヘルマン・ヘッセの名がクレジットされた曲で語りがリードする「Schmetterling」をはじめとして、
演劇的な要素も強い。
一方でヘヴィかつ荘厳なパワフル・ロック・チューンのオープニング・ナンバーと、
“アンビエント・ロック”とも言いたくなるラスト・ナンバーは、
演奏のみで持っていって意味性から解き放たれていてダイナミックである。

まだまだ突き抜けられそうな可能性を感じる一枚。


★Night of Music Explorers『NoME Ⅱ』(FULLDESIGN FDR-1035)CD
内ジャケットにオリジナル曲の3曲の歌詞が載った薄手のプラケース仕様の約43分6曲入り。


INCAPACITANTS『Survival of the Laziest』

INCAPACITANTS『Survival of the Laziest』


非常階段のメンバーでもあるT.ミカワが80年代初頭に始め、
非常階段の元・準メンバーで多彩な展開しているF.コサカイと活動している、
“ノイズ・デュオ”のニュー・アルバム。
彼らが数々の代表作をリリースしてきたALCHEMY Recordsからの10年ぶりの新作でもあり、
まさに満を持した快哉痛快盤である。

二人の温厚な佇まいからは想像がつかない突き抜けた殺戮の調べがいきなり心臓を直撃する。

パッケージ裏には担当パートとして二人とも“エレクトロニクス、ノイズ”とクレジットされている。
ただジャケットの内側にはエレクトリック・ギターを振り回すコサカイの写真もあり、
実際エレクトリック・ギターの極北の音のようでもあり、
ヒトの声らしき音声も聞こえてくる(幻聴か?)。

猛烈な勢いで渦とクダを巻く二人のノイズの絡み合いはインプロヴィゼイションだろうが、
フリー・ジャズが好きな方もイケるのではないだろうか。
サウンドの分離のいい音の仕上がりだから、
ノイズがどう鳴ってどう湧き出ていてどう搾り出されているかも目に映るほど痛いほどよくわかる。
全身ノイズの絡み合いが半端ない。
ノイズ以前に高周波高音波超高濃度のエレクトロニック・ミュージックでもある。

マグマの如き灼熱こってりノイズが、うねる、うなる、沸騰する。
ドライになんてなりようがない泥酔ノイズである。
どぶろくの熱燗みたいに気合ムンムン。
氷結したウォッカみたいに冷気キンキン。
二人ともインテリとして一部で知られているが、
むろん頭デッカチとは百万光年対極のノイズである。
存在自体がノイズになって無意識のうちにエンタテイナーと化す彼らのライヴと同じく、
汗が飛び散る肉体派ノイズでエナジーほとばしる。
本作のエピローグでしっかり確認できるように、
INCAPACITANTSのライヴでモッシュが巻き起こるのも当然だとこのCDを浴びてもわかる。

アルバム・タイトル(ちなみに今回の“邦題”は懶者生存)でも毎度クスッと笑わせてくれるが、
トローンもヘッタクレもないデリケイト・ノイズの放射連射はゲラゲラ笑っちゃうほど豪傑である。
ほんとうにエクストリームなものほどめまいがするほど美しいこともあらためて知る。
人知れずメロディも漏れてくる。

gooの辞書によると“incapacitant”とは、
“無能力化剤:一時的な眠け, めまい,麻痺まひなどを誘発し,人を活動不能にする薬剤毒ガス,催涙ガス”
を意味するという。
言い得て妙ではないか。

INCAPACITANTSに妥協はない。
あくまでもストロング・スタイル。
INCAPACITANTSに進歩もない
94年リリースのCDのタイトルで表明したようにまさしく“no progress”。
だからこそ歳を重ねるごとに激烈になっている。
やはり、恐るべし。


★インキャパシタンツ『Survival of the Laziest』(ALCHEMY ARCD-256)CD
昨年6月の東京BUSHBASHにおける約33分のライヴ・テイク1曲を含む約76分4曲入り。
ジャケット現物の色合は↑の画像よりも濃いです。


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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