なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

黒岩あすか『晩安』

黒岩あすか


1996年2月大阪生まれのシンガーソングライターによるファースト・アルバム。
ガット・ギター弾き語りで歌をじっくりと刻んでいく独演である。

息を吐くように歌っている。
工藤礼子や朝生愛を思い出すところもあるが、
もっと、ずっと、“生”の呼吸に近い。
でも言葉は聞き取れ、
一度耳にしたら一生忘れない声の響きだ。
中国語で“おやすみ”を意味するアルバム・タイトルにふさわしい。
ゆっくり、ゆっくりの、ミニマルな展開ながら、
ネオアコのようにフックのある曲がほとんど。
影を帯びた優美な佇まいにゆっくりと覚醒されていく。

PORTISHEADのベス・ギボンズやスザンヌ・ヴェガがもっとずっと華奢になって
ローレン・マザケイン・コナーズや樋口寿人と出会ったかのようでもある。
でもギターはなかなか大胆で、
弦の音が大きく響いているサウンドのバランスも的確なレコーディングの仕上がり。
心のビートのリズムを間合いを保ちながら確かに刻む。
時にかなり力強いリフも叩き出す。
なぜなら二度と同じ音が出ないギター演奏の鳴りも彼女の“歌”なのだから。

「電車」「鳥」「雨」「台所」「水道」「道路」というタイトルの
フィールド・レコーディングっぽい“小曲”を偶数トラック・ナンバーに収め、
アルバム全体の流れに潤いをもたらしている。
穏やかなだけで終わらずラスト・ナンバーはかなりヘヴィだ。

内向きの表現のようで、
日本以外の地にも確実に響く一枚。
日本語がわからなくても確実に響くCDだから。
声の“ちから”をあらためて思う


★黒岩あすか『晩安』(Gyuune Cassette CD95-71)CD
手書き書体で歌詞が綴られている8ページのブックレット封入の約37分13トラック入り。


映画『密偵』

メイン


日本統治時代の“朝鮮”の独立運動団体と日本警察の攻防を描く2016年の韓国映画。
密偵(≒スパイ)が主人公のハードボイルドなサスペンスものながら、
血も涙もないクールな筆致であると同時に
血と涙があふれる人間ドラマの佳作である。

1964年生まれのキム・ジウン(1999年の『反則王』、2013年の『ラストスタンド』)が監督し、
1967年生まれのソン・ガンホ(1999年の『シュリ』、2006年の『優雅な世界』)が主演し、
1979年のドラマ『3年B組金八先生』から年輪を刻んだ鶴見辰吾が朝鮮総督府局部長役を務めている。
ところによってはソン・ガンホも日本語で話し、
英語圏以外の外国映画にしては人名も覚えやすくて取っつきやすい。

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関係者の方から掲載依頼された<あらすじ>は以下のとおりである。

1920年代の日本統治時代。
元朝鮮人の日本警察イ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は
武装独立運動団体の義烈団を監視しろとの特命を受け、
義烈団のリーダー、キム・ウジン(コン・ユ)に接近する。
出処不明の情報が双方間で飛び交い、誰が密偵なのか分からない中、
義烈団は日本統治下の主要施設を破壊する爆弾を京城(現ソウル)に持ち込む計画を進めていた。
そんな中、日本警察は義烈団を追って上海へ。
義烈団と日本警察のかく乱作戦が繰り広げられる緊張感の中、
爆弾を積んだ列車は国境を越えて京城へ向かうが…。

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まず緻密な脚本が見事だ。
贅肉を削ぎ落して重厚に研ぎ澄まして反日も嫌韓も絶句させる。
ばかし合いと裏切りで時に身内で憎み合う。
どちらの側につくか?
誰がどっちの味方なのか?
二重スパイなのか?
敵も味方もヘッタクレもない古今東西不変の人間関係をギリギリの状況で見せつつ、
そこを突き抜けた誠意と真摯なつながりの尊さを描くところが白眉だ。

80年代の日本のドラマや映画を思い出す映像色が生々しい。
拷問シーンも韓国映画ならではの妥協無し容赦無しのハードコア描写で、
ホラーものも含めて日本映画や欧米映画とは別次元の神経痛撃の映像に息を呑む。
女性にとっては性的拷問以上の鬼畜行為には目を覆いたくなり、
観ていると自分の爪がペンチでブチ割られて自分の頬に灼熱の焼印が押される気分になる。

音楽の使い方もスリリングかつ挑発的だ。
残虐なシーンだからこそあえて落差の大きいムーディな音楽を流すところでは、
“非常時”にはヒトの命が軽く扱われることを表したようにも思える。

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何より俳優陣の演技が熱く鈍く光っている。
映画のシチュエーションと状況そのままの生きるか死ぬかの決死の気合で、
俳優全員が真剣勝負で役に挑み臨んでいる。

特に(元)朝鮮人の日本警部を演じた主演のソン・ガンホは強力。
忠誠を誓うがゆえにいいように使われて朝鮮と日本のどちらにとっても売国奴になりかねない立場で、
葛藤やアイデンティティに苦悩し、ヒトとして自分が犯している罪に苛まされながら、
揺れ動く感情と意識の流れと強固な意志を全身表現している。

“他の密偵”を演じる面々も壮絶だ
独立と恋人のために義を貫く女性をはじめとして終始断末魔である。
必死に本気で生き抜こうとした人間を演じるには必死に本気でなければならない。
ギリギリの状況のテーマなのに本気で対象に向き合ってない作品が目立つ昨今、
甘えがない。
だからリアルなのである。

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朝鮮と日本だけの問題ではなく普遍的なテーマの映画でもある。
祖国だの愛国だのがどーのこーのって話がよく出るが、
パレスチナ人やクルド人をはじめとして国のない人たちは蚊帳の外だ。
ケースは違うが最近だとスペインのカタルーニャ地方の独立問題も考えさせられる。

でもこの作品はいわゆる政治的な映画とは一線を画す。
たしかに時代背景からしてポリティカルな要素は強く滲んでいるが、
肝は人間である。
人間の“義”と“業”を胸元に突きつける。
“国”としての独立を目指した人間たちの物語ではあるが、
ひとりの人間としての“独立”を思う。
生き抜くために嘘も方便として使いながら、
真摯であり誠実であることを問う強靭な映画なのである。


★映画『密偵』
2016年/韓国/韓国語・日本語/カラー/140分/原題:密偵(밀정)
<公開表記>11月11日(土)公開
<コピーライト>(C)2016 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
<受賞歴>
第36回韓国映画評論家協会賞 作品賞、音楽賞 受賞
第53回大鐘賞 助演男優賞(オム・テグ)、美術賞 受賞
第11回アジア・フィルム・アワード 作曲賞(モグ)
第53回百想芸術大賞 監督賞(キム・ジウン)、主演男優賞(ソン・ガンホ)

http://mittei.ayapro.ne.jp/


長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』

長見順『在庭坂(ZAINIWAZAKA)』


山形県に近い福島県福島市在庭坂が拠点のシンガーソングライターである、
長見順(うた、ギター、ほか)の新作。
80年代から活動を始めてから多彩な展開を続け、
98年にファースト・アルバムをリリースして以来ソロ作品も多数発表してきた。
セカンド・アルバム『OYAZI』(2003年)をリリースした際には忌野清志郎も賛辞を寄せていたが、
それも納得のおおらかな佇まいが本作では深化している。


彼女とともに近藤達郎がプロデュースし、
ワダマコト、土生"TICO"剛、浦朋恵、小森慶子、早川岳晴、芳垣安洋、かわいしのぶ、GRACE、西尾賢、
岡地曙裕、向島ゆり子、高橋香織、ジュジュ井上、会津マスクワイア、ブラウンノーズ1号、
タカノシンジ、ランブリン前田らも参加。
いわゆるロック・バンドの楽器構成を核にしつつ彩り豊かな仕上がりで、
曲によってスティールパン、バリトン/アルト・サックス、ウッド・ベース、ヴァイオリン、
ヴィオラ、バンジョーなどの楽器が入り、
さらにたくさんの人がユニークなコーラスをとっている。

まさに楽しみながらみんなでレコーディングしたような空気感を真空パック。
みんなが盛り立てて具がいっぱいのホーム・パーティみたいなアルバムだが、
渋く和らいだ長見のギターもさることながら、
近藤が弾くエレクトリック・ピアノ、ピアノ、オルガンを潤滑音にして上手くまとめている。

音楽的にはR&B・・・しかもけっこうモダンでメジャー感のあるR&Bが大半の曲のベースだが、
あくまでも音はやわらかく、
ジャズやレゲエなどもフリーギーかつキャッチーにブレンド。
曲ごとに凝っており、
長見が役者になってセリフのようなトーキング・ヴォーカルで演じるシアトリカルな曲もあり、
ゆったりと自由に曲が進む。

とにかく全編元気である。
“私”より“あたし”が似合う一人称の歌はユーモラスでオチャメ。
けど豪快なようで歌声はなかなかキュート&繊細で、
舞い踊った後にしっとり歌うヴォーカルが特にすっぴんだ。

こういう歌ものの人のCDにしては珍しく歌詞カードが付いてないところも特筆すべきだろう。
言葉尻をとらえて一喜一憂したり、称賛したり、ディスったりして喜ぶ世の中、
色々と人生をくぐってきて今があるような多幸感をアルバムの歌とサウンドの全体で味わいたい。


三味線や太鼓も入るボーナス・トラックはライヴの打ち上げか余興のプレイにも聞こえるが、
“御愛嬌”で済ませるにはもったいない生のレコーディングである。


★長見順『在庭坂(ZAINIWASAKA)』(Nyon NJ-006)CD
約65分13曲入り。
味のある紙質とデザインで曲ごとの参加者もクレジットされた四つ折りインナー封入の、
カードボード状の二つ折りペーパー・スリーヴ仕様。


NUDGE'EM ALL『GO』

ナッヂエムオール


94年に東京で結成された“ポップン・ロール・バンド”の
NUDGE'EM ALL(ナッヂエムオール)が6年ぶりに出した新作。
約19分7曲入りのヴォリュームながら聴き応えありありだ・


歌詞が全曲日本語になり、
いい意味で濃くなった。
甘いヴォーカルで歌われる日本語がはっきり聞き取れるだけに、
音とのケミストリーが五割り増しなのだ。
寅さんとは関係ない曲と思われるが、
「オトコはつらいよ」ってタイトルの曲まで堂々と歌い抜くなんて
スカしたパワー・ポップ・バンドにはできない芸当である。
ここまでベタなラヴソングの連発も最近のバンドは意外とあまりないような気がするし、
てらいなく堂々と歌い倒しているところも好きだ。

ドラマーが作詞でヴォーカル/ギターが作曲というソングライティング・チームは、
たとえは乱暴でホメすぎだが、
レノン/マッカートニーやジャガー/リチャーズもイメージするほど相性バッチリである。
ところによってはシティ・ポップスの旨みもハジけているし、
シュガー・ベイブ周辺が好きなポップス・ファンも楽しめそう。
モータウンや初期のBEATLESのビート感やエッジも感じる。
2010年代に加入したキーボードとベースのメンバーも目立っていて、
特にキーボードはかつてのNUDGE'EM ALLとは別のリズミカルな新しい疾走感を生み出している。

ドラマーのビートがパワフルだから曲によってはパンクっぽく聞こえるが、
パンク・ロックと呼ぶのは抵抗がある。
パワー・ポップとも微妙に違う気もするしで、
“パワー・ポップス”と強引に言ってしまいたくもなる。

いや、ここはひとつ、
敬意をこめてクールなポップス!と言い切りたい一枚だ。


★NUDGE'EM ALL『GO』(KOGA KOCA-95)CD
ジャケットも兼ねた三つ折りの歌詞カード封入。


カニコーセン『ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい』

カニコーセン


“播州スラッジフォーク”を標榜して
兵庫県加古川市を拠点に2010年から多彩かつ精力的なリアルDIY活動を続ける、
奇才男性のユニットのカニコーセンの5作目。
ベース演奏にゲストを招いている以外は、
作詞作曲歌演奏すべてのパフォーマンスを一人でやっている。
ギターの弾き語りが基本ながらバンドにも聞こえる手の込んだ作りで“生”の表現を繰り広げる。


70~80年代の“日本語フォーク/ロック”の2017年アップデート版みたいなアルバムだ。
シティ・ポップスやブルーハーツの替え歌みたいな曲もやってのける。
加藤和彦と北山修の「あの素晴しい愛をもう一度」をはじめとして色々な曲を引用&応用しているが、
そういったものもオマージュに聞こえる。

“播州スラッジフォーク”に偽りない曲もやっているが、
穏やかなトーンで進める曲が大半を占める。
ただ全曲ポップで取っつきやすいとはいえ、
毒やらなにやら盛っているスラッジーな歌オンリー。
歌詞の世界観がイメージできそうだから参考までに曲名を記しておく。

「カレーパン怖い」「お墓難民電話相談室」「ちんぽのロックンロール」「キスしたい」
「ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい」「どこでもディスコ」
「ミルクマン・オブ・ヒューマン・サッドネス」「浜辺のくらし」「嫉妬のハナモゲラ」「じゃあね」
「サンデードライブ」「エンド・オブ・ザ・ワールド」「墓をください」

イギー・ポップギターウルフが言ってきているようにタイトルがまず大事だ。
そもそもアルバム・タイトルからして救いようがないほどクレイジーである。
ブックレットの画から察するに実在アナウンサーの人を指しているとも解釈できるが、
同名曲の歌詞だと彼女は一種のアイコンみたいな存在で、
その曲名のフレーズは本人の気持ちとは限らず呪文のような言葉らしい(セルフ・ライナー参照)。

とはいえ、これまで僕が聴いたカニコーセンの中でもトップクラスのオゲレツ度。
妻子持ちなのに大丈夫か?とちょっぴり心配もするが、
奥さんはこのアルバムの制作に協力しているから“公認”&黙認と思われる。
そんでもって家族のために働く男の悲哀の歌もきちっと歌っている。
けどなんだかんだでしあわせとも勝手に推測できる。
飄々と突き放した歌い口も奏功し、
しあわせ自慢に聴こえないのがいい。

とにかく緻密パラノイアな凝ったプロデュースが施されていて飽きさせない。
独り言一人芝居みたいなパートもあるし、
本来の意味での芸人の表現だ。
ぼやきも山ほど芸にしているが、
恨み情念ドロドロってやつじゃなく、
やっぱりポップに突き抜けている。
だからこそピリッと甘辛いスパイスの効いた歌が活き、
救われるアルバムだ。

アルバム・タイトルのエピソードとリンクする公衆便所ジャケットやブックレットの画は、
BLACK FLAGやMINUTEMENやOFF!でお馴染みのレイモンド・ペティボンを思い出す
(もっと近いのがDRIVE LIKE JEHUの『Yank Crime』のジャケット)。
そのへんのバンドを聴いているとは思えないが、
やはりスラッジーな心根が共振していると思わずにはいられない一枚。


★カニコーセン『ヤギアキコのおまんこふやけるまでシャブりたい』(No Label, No Number)CD
約44分13トラック入り。
ほぼすべての歌詞が載ってセルフ・ライナーを含む解説も載った24ページも紙ジャケットも、
手作り感が溢れて味のある丁寧な仕上がりだ。
裏ジャケット右隅の“500円也”というクレジットもうれしい。
https://www.kanikoosen.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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