なめブログ

パンク/ハードコア/ロックをはじめとする音楽のほか映画などにも触れてゆくナメの実験室

川島誠(Makoto KAWASHIMA)『Dialogue』

川島誠『Dialogue』


2008年から埼玉県を拠点にアルト・サックスの即興演奏を始め、
2011年に『Solo』でCDデビューした川島誠(alto sax)の新作。
川島のライヴの根城である埼玉県入間郡越生町のギャラリィ&カフェ山猫軒で録音し、
自主制作レーベルの“ホモサケル・レコード”からリリースしたCDである。

むろんアルト・サックス一本勝負で、
19分間に想いを凝縮した1トラック入りだ。


いきなり消え入りそうな音のオープニングからまもなく無限に音がふくらむ。
じっくりと、ゆっくりと、ひめやかに、肝の据わった音の出し方で、
つややかで、のびやかで、もの寂しい音色が空間に広がる。
てらいなくクールに感情にタメを効かせ、
身を削って、一音、一音、紡ぎ出しているようなヒリヒリした響き。
はらわたから音を震わせているから、
はらわたが音で震わされる。
こわれそうなほど強直なストロング・スタイルの音に胸がすくばかりだ。

“対話”を意味するCDタイトルは映画などのセリフも意味するから一概には言えないが、
“dialogue”はやや軽めの“会話”のニュアンスの“conversation”とはやっぱり違う重みがある。
一種の“対峙”みたいに感じで話を交わす印象の言葉で、
“真剣勝負!”みたいな堅苦しい作品ではないが、
やっぱりこれはしっかりと真正面から向き合っている対話の音楽だ。
特定の人との“dialogue”であり、
聴き手との“dialogue”であり、
おのれ自身との“dialogue”である。

その“特定の人”として想像できる人たちが、
ジャケット裏面に“スペシャル・サンクス”としてリスト・アップされている。
阿部薫がよくライヴをやっていた福島市のカフェ・パスタンのママだった故・松坂敏子らとともに、
東京で80年代半ばから活動していたPSF Recordsの主宰者の故・生悦住英夫もクレジットされている。
川島の2015年のアルバム『Homo sacer』は結果的ながらPSF Recordsのラスト・リリースになったが、
これはサイケデリック音楽や前衛音楽とともに生悦住が大好きだった“本物の演歌”でもある。
喉を震わせているアカペラの歌謡ブルースのようであり、
まさに“歌う”アルト・サックスが、
おくゆかしく熱い“うたごころ”をたたえているのだ。

屋台のラーメン屋さんのチャルメラにも通じる郷愁を誘う人懐こいメロディにもあふれている。
大衆酒場でケンカしている輩が、
このCDが鳴った途端に争いを止めて聴き入って涙するみたいな光景もイメージできる。
そんな夕暮れ、そして早朝の息吹も聞こえてくる。

インプロヴィゼイションかもしれないが、
一瞬一瞬、瞬間瞬間、ひと時ひと時で歌を紡ぎ、
心に残るメロディをつなげて連なった音は絶えることのない“生”である。
すすり泣きや嗚咽みたいな音も漏れてくるから哀歌や悲歌にも聞こえるが、
センチメンタルに逃げない胆力に打たれるばかりだ。

これまたほんとグレイト。
新たなる名盤と言い切れる。


★川島誠『Dialogue』(Homosacer HMSD-003)CD
川島自身が手がけたアルバム・カヴァーのカードボード状のペーパー・スリーヴ仕様。
http://kanpanelra.wixsite.com/homosacerrecords


Peter Perrett『How The West Was Won』

Peter Perrett - How The West Was Won - Packshot-72 dpi


1976年結成のONLY ONESのフロントマンであるピーター・ペレット(vo、g)のソロ作。
『Woke Up Sticky』以来の約21年ぶりのオリジナル・ソロ・アルバムという感じでもあるが、
その作品は“Peter Perrett In The One”という名義だったから、
厳密に言えばこれがファースト・ソロ・アルバムと言える。


80年代初頭のONLY ONES(一時)解散からしばらくリハビリで休み、
90年代に入ってから断続的に活動。
2000年代後半に再編して以来ONLY ONESでライヴをやっていて、
フル・メンバー揃ったONLY ONESとして日本公演も行なって新曲も披露していたが、
アルバムのリリースはなかった。
2008年のONLY ONESの初来日の時にインタヴューした際、
インターネット時代に音盤で曲を発表することにあまり乗り気でなかったのだが、
そんな気持ちが続いていたのか時間がかかったとはいえ新作が聴けて心からうれしい。
最近こればっか聴いている。


ソロ名義ということを重視してかONLY ONESのメンバーは演奏してない。
息子のジェイミー・ペレットとピーター・ペレット・Jrが、
ギター/キーボードとベースとバッキング・ヴォーカルで参加している。
そんな“ファミリー・バンド体制”でのレコーディングがいい方向に表れ、
アット・ホームな空気感にも包まれている。

でもむろんどこまでも研ぎ澄まされている。

ピーターのギターのクレジットは“リズム・ギター”になっているから、
艶やかなギター・ソロは息子のジェイミーの音だと思われる。
二人のバッキング・ヴォーカルもいい。
3曲にエレクトリック・ヴィオラとヴァイオリンも加えられている。

プロデュースは、
80年代の以降のROLLING STONESの諸作品で知られ、
KILLING JOKEの『Night Time』『Brighter Than A Thousand Suns』も手掛けたクリス・キムジー。
開放的なメジャー感と軽やかなニューウェイヴ感が適度に覆い、
品が良くキラキラしたピーター・ペレットらしい天然の響きに目が覚める。

PeterPerrett - PC Steve Gullick - Y1A3009- 72 dpi

いい意味で変わってない。
REPLACEMENTSやBLINK-182、LIBERTINESといった80年代以降の意外なバンドたちもカヴァーした
ONLY ONESの1978年のセカンド・シングル曲「Another Girl, Another Planet」から連なる、
クールなポップ・センスと優雅なメロディ・センスに磨きをかけている。
もちろんビートはしっかりしているし、
きっちり作られているアルバムだ。
けど活動状況に象徴されるマイ・ペースぶりそのもので何が起ころうと揺るがず動じることはない。
ヴォーカルをはじめとして潔いほど悠々自適だ。

ゆるくてまったりしているが、
“どうにでもなる”ほどやわらかい。
覇気があるないなんてどうでもいい。
さりげなく確信に満ちた歌と音がとてもストロングに屹立して息をしている。
ふわふわしているようで浮つきとは対極の地に足が着いたアルバムである。

ほろ苦く、うるわしく、甘美な、
とろける“猫なで声”もソフト・サイケデリックだ。
65才の男のアルバムと思えないほど初々しく瑞々しい歌声と音で、
そこはかとなく年輪を感じさせる歌の数々を披露する。
『西部開拓史』という邦題が付けられた1962年の米国映画のタイトルでもあり、
LED ZEPPELINが1972年のライヴを収めて2003年に出したアルバムのタイトルでもあるが、
どこもかしこも思い切りデリケイトであるにもかかわらず大胆なピーターらしいタイトルだ。


ジョニー・サンダースとともに同じ1952年生まれの自称“同級生”で
“三つ子の一人”としてシンパシーを覚えるほど灰野敬二も大ファンだが、
先行ネット公開されたアルバム・タイトル曲が
VELVET UNDERGROUNDルー・リードの有名曲「Sweet Jane」にあまりにも似ていて、
“おいおい、どうしたんだよ、ピーター・ペレット!”とびっくりしていた。
けどそういう突っ込みどころもひっくるめて楽しめる。

こういう潤いのアルバムが欲しかった。
聴けば聴くほど解き放たれる。
まさにグレイト。


★Peter Perrett『How The West Was Won』(DOMINO WIGCD382)CD
16ページのブックレットも二つ折り紙ジャケットも丁寧な作りの約43分10曲入り。


映画『ギミー・デンジャー』(イギー・ポップ率いるSTOOGESのドキュメンタリー)

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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013年)の撮影による中断期間を挟みつつ、
ジム・ジャームッシュが監督と脚本を務めて作られたSTOOGESのドキュメンタリー映画。

友人でジャームッシュの映画『デッドマン』『コーヒー&シガレッツ』に出演したイギー・ポップ(vo)が、
直接制作を依頼して実現したという。
昨年発表の目下の最新ソロ作『Post Pop Depression』リリースの際にイギーは、
「STOOGESのストーリーに決着をつける必要があった」と言っていた。
いわばそんなイギーの“STOOGES再統一プログラム”の一環だが、
STOOGESとIGGY AND THE STOOGESの再編作やツアーに匹敵する“STOOGESの重要な作品”である。

四の五の言わずに観ていただきたい。

僕はプレス用の資料とパンフレットに書くため早いうちにいただいたDVD-Rで何度も観たが、
そのあと試写会で観て感動濃度が明らかに違った。
劇映画を多数撮っているジャームッシュだけに劇場のスクリーンで観ることを想定して作っているし、
ドキュメンタリーだろうがあくまでも“映画”として仕上げている。

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©2016 Low Mind Films Inc

1969年にアルバム・デビューする前のものも含む写真やライヴ映像を絡めつつ、
関係者の話で進める比較的オーソドックスな作りの音楽ドキュメンタリーとも言える。
その中でジャームッシュが遊び心を発揮し、
DR. FEELGOODの『ドクター・フィールグッド -オイル・シティ・コンフィデンシャル-』のように、
節目になった様々な場面のSTOOGESの行動に即した感じでメンバーの“代役”として
種々雑多な映画やドラマの頓智の効いたシーンを適宜挿入。
さらに同じような調子でユーモラスなアニメーションも使ってメンバーの行動を補完し、
映画全体に潤いをもたらしてポップなテイストを加味している。

とはいえストイックなほどストレートな作りが基本だ。
むろん欠かせない要素とはいえ不良自慢の類いのセンセーショナルなネタに頼らず、
“贅肉”を削ぎ落してSTOOGESの核のみを凝縮。
地に足の着いた仕上がりでSTOOGESの重みをたたえ、
メンバー一人一人に真正面から向き合ったジャームッシュのSTOOGESに対するまっすぐな敬意が
じわじわ伝わってくる。

sub1_Gimme Danger (c) Byron Newman
© Byron Newman

STOOGESの様々なルーツが語られる。
イギーの激しい動きをはじめとするステージングや歌詞の組み立て方に関する話も面白いが、
特異な音楽性の源泉も紐解かれる。
もちろんイギーはパンクのゴッドファーザーだし、
STOOGESがパンク・バンドの元祖でもあることに疑いの余地はないが、
イノヴェイターだからこそパンクのスタイルにこだわることはありえず、
彼らの懐の深さと受容力をあらためて思う。

解散(長期活動停止開始)直後の
パンク・ムーヴメント以降のバンドのほぼすべてがSTOOGESチルドレンなわけだが、
STOOGESをカヴァーしているバンドなどのライヴ映像も含みつつ、
よくある影響力云々に時間をあまり割いてない。
映画の“メイン・アクト”に焦点を絞っていることが引き締まった作りの一因である。

イギーの上半身裸のルーツも含むヴィジュアルやディテールの話題も見落とせないところで、
SEX PISTOLSのシド・ヴィシャスの過激なファッションが
イギーとロン・アシュトン(g)のクレイジーなアイテムの引用とも解釈できる。

sub4_Gimme Danger (c) Joel Brodsky
© Joel Brodsky

子どもの頃も振り返るイギーの他に登場する“キャスト”は以下の7人のみである。
ロン・アシュトン(g)、
スコット・アシュトン(ds)、
ジェームズ・ウィリアムスン(g)、
スティーヴ・マッケイ(sax)といったSTOOGESのメンバー、
2000年代以降の再編STOOGESでベーシストを務めたマイク・ワット(元MINUTEMEN~FIREHOSE)、
アシュトン兄弟の妹でMC5のフレッド・スミスのガールフレンドでもあったキャシー・アシュトン、
STOOGESの後にRAMONESを担当する元マネージャーのダニー・フィールズ。
ミュージシャン仲間や影響を受けた人たちが一切インタヴューに登場しない。
でもSTOOGESの真の関係者オンリーにもかかわらず、
いやだからこそ内向き馴れ合いに陥らずにすべての人に開かれている映画である。

近しい人間で固めたことでバンド内の微妙な人間関係と人間模様が浮き彫りになり、
人間ドキュメンタリーとしても楽しめる。
トークの内容以前にメンバー個々の佇まいや話し方を見ているだけでも、
下世話な視点で見ると解散後の“勝ち組/負け組”や格差などに思いをはせ、
色んなことを考えてしまって僕は胸がつまったりもする。
そしてやっぱり、
子どもの頃から幾度となく苦汁を飲んで苦渋を味わいながらもやり続けているイギーの強靭さを知る。

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©Danny Fields/Gillian McCain

コンスタントに出し続けているソロ・アルバムでは音楽的にブレのある人だが、
発言にブレがないことに表れているようにイギーは頑固だ。
90年代までの無数のSTOOGES再結成の要請にもかたくなに応じなかった。
そんなイギーがSTOOGES“再統一”を決意したのは
映画で本人が語っている現実的に側面もあっただろうが、
長年“放置”してきたアシュトン兄弟に対する仁義みたいなものも感じる。

実は映画の制作開始から昨年米国で公開されるまでに
本作に登場するメンバーの3人が亡くなっている。
アルバム・レコーディングのメンバーに限ればSTOOGESはイギーとジェームズしか生き残っていない。

sub3_Gimme Danger (c) Low Mind Films
© Low Mind Films

イギーの誠実さと正直さも見て取れる映画だ。

RAMONESの映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』もそこが見どころの一つだが
2010年の“ロックの殿堂”入りのシーンがこの映画もクライマックスだ。
どん底に落ちた時に何度も観て僕も這い上がることを決意した。
大したことを言っているわけじゃないのに何度観ても胸に迫るシーンで、
いきなりイギーがオリジナルSTOOGES時代からお馴染みの“指使い”を披露する。
子どもっぽいやつは好きじゃない。
軽いってことだし本気じゃないってことだから。
でもイギーみたいに大人げないのは大好きだ。

反知性主義じゃないが、
ぽろりとさりげなくこぼすイギーの数々の名言でも
“原始人”のインテリジェンスほど的を射たものはないことをあらためて思い知る。

淡々としたラストも好きだ。


★『ギミー・デンジャー』
2016年/アメリカ/英語/108分/アメリカンビスタ/カラー、モノクロ/5.1ch/原題: GIMME DANGER/
日本語字幕:齋藤敦子
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:イギー・ポップ、ロン・アシュトン、スコット・アシュトン、ジェームズ・ウィリアムスンほか
配給: ロングライド
提供:キングレコード、ロングライド  配給:ロングライド
9月2日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開 
© 2016 Low Mind Films Inc
公式HP:http://movie-gimmedanger.com/


STUPID BABIES GO MAD『LONG VACATION』

STUPID BABYS GO MAD『LONG VACATION』


静岡県拠点の“ハイ・スピード・パンク・ロックンロール・バンド”の4作目。
98年のアルバム・デビュー以来
IDORAなどとのsplit盤を含めてEP等も多数出してきたが、
アルバムとしては約11年ぶりのリリースになる。


『Ace Of Spades』『Iron Fist』の頃のMOTORHEAD
『Machine Gun Etiquette』の頃のDAMNED
『Hear Nothing See Nothing Say Nothing』の頃のDISCHARGEを、
ファーストのタイトルの『Speed, Thrill, Stupid!』といった感覚で混ぜたようなサウンドは健在だ。
むろん初期の肝だった伝統的なジャバニーズ・ハードコア直系の荒くれ感はさすがにないが、
今回もBorisのアツオがレコーディングに関わり、
録音とミックスをして微妙に凝った仕上がりになっている。

まずモノラル・ミックスで仕上げられているところが特筆すべきところで、
小技を効かせるベースと休み無しのドラムがグルーヴの塊になって特に真ん中からガンガン攻めてくる。
うなりを上げるエレクトリック・ギターが芯の太い電撃音であることに変わりはなく、
ブルースを感じさせつつも土臭くなくて硝煙と金属の匂いを噴き上がらせ、
鼓膜を殺る音域を狙って作ったかの如く相変わらず“耳痛”必至である。
ささくれだっているようでクールな音作りが施されてrawというより研いだ感じの響きで、
“軋みの雑音”が幻聴みたいな調子で漏れ聞こえてくるのもポイントだ。

ほとんどの曲がツー・ビートで爆走するが、
一ひねりしてもう一展開する曲作りも光り、
アルバム全体がドラマッチックな流れになっている。
ヴォーカルとギターが切なく“泣き”の感覚のメロディを滲ませ、
コーラス・ワークもバッチリで、
“殺伐としたメロディック・ハードコア・パンク”とも言えるほどだ。

繊細な声のヴォーカルは意外とシャウトが多くなく、
曲に言葉を切々と置いていくような胸に迫る独白調の歌い方が耳に残り、
こういうサウンド・スタイルにはあまりないタイプだ。
必ずしもヴォーカルを前面に出したバランスには仕上げられていないが、
歌詞の日本語はわりと聞き取れる。
収録曲のほとんどが“おまえ”に対する歌で、
ラヴソングにも聞こえるし、
“ファック・ユー!”ソングにも聞こえる。
ヴォーカルがずっと生々しくなっているのが嬉しい。

“歌”を感じる一枚。


★STUPID BABIES GO MAD『LONG VACATION』(Diwphalanx PX-319)CD
凝った紙質の12ページのブックレットが封入された約30分10曲入り。


映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』

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EMERSON LAKE & PALMERの『Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)』(73年)の
ジャケットを手掛けたことで注目を集め、
映画『エイリアン』(79年)の造形でアカデミー賞視覚効果賞を受賞した、
スイスの画家/デザイナーであるH・R・ギーガーの2014年のドキュメンタリー映画。

これは傑作だ。

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もちろん本人もたっぷり登場して話しているが、
監督によればギーガーはあまり語りたがってなかったらしく、
関係者のインタヴューでギーガーを炙り出していくところも多い。
とある人がギーガーを「人間の魂の最も深い領域を描く」と評しているように、
生と死、命、魂、そして性がモチーフとも言える。
子どものころの様々な体験、恐怖の緻密な作風やユニークな発想の源泉、絵に対する取り組み方など、
刺激になる話の連続だ。
お手軽なコラージュの類いでは辿り着けない域の生々しく彫りの深い冷厳な絵が織り込まれ、
やはり身を削って描いていたからこその深遠な表現だと思わされる。

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そういった話と懐かしの映像や写真、自身の作品を絡めながらギーガーの人生をたどりつつ、
撮影時期のギーガーを追っていく。

陽光が射し込まぬ地下室を核とするギーガーの家の中や鬱蒼とした広い庭での撮影が大半だから、
制作などの“work”を含むギーガーの“日常”をたっぷり見られること自体が貴重だ。
中にも外にも様々な造形物(オブジェ)が置かれ、
室内では絵もあちこちで見られる。
アトリエと思しき部屋にも目が釘付けだ。
いちおう整理されてはいるとはいえ断捨離と対極の書物をはじめとする物だらけの家で、
こういう部屋から一連の作品が生まれたと思うと個人的に勇気づけられた。

ギーガーの生活も映し出しているところがポイントである。
両親も登場するほど何気にアットホームなテイストの加味も心憎い。
歴代の恋人/パートナーが登場するのも興味深く、
登場しない一人の女性の秘話には胸が締めつけられる。

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言うまでもなく映画『エイリアン』のことにも触れ、
性器をイメージさせるギーガー特有の造形のエピソードを笑いながら語る。
もちろんDEAD KENNEDYSの『Frankenchrist』(85年)のLPに限定で封入されていた、
数体の交尾局部アップが上下左右に並ぶポスターにも言及される。

ギーガーはEMERSON LAKE & PALMERやMAGMA、BLONDIEのデボラ・ハリー、
DANZIG、CARCASSなどのミュージシャンのアルバムのアートワークも手がけたが、
そういう人たちをいちいち出演させて絶賛の言葉で埋め尽くさないストイックな作りも好きだ。

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その中の代表としてギーガーと同じスイスのトーマス・ガブリエル・フィッシャーが選ばれた。
80年代初頭からHELLHAMMER~CELTIC FROST~TRIPTYKONで、
世界中のエクストリーム・メタルに絶大な影響を及ぼし続けてきているミュージシャンである。

撮影当時ギーガーの秘書も務めていて、
トム・G・ウォリアーと名乗っていた頃の恐持てはどこへやらのギーガーの前での低頭ぶりが微笑ましく、
“馴れ初め”を語るところでは僕も身を乗り出して観てしまった。
重要人物の一人と解釈したのであろう監督はトムをあちこちで登場させ、
CELTIC FROSTとTRIPTYKONのジャケットを手掛けたギーガーが、
トムの世界観にかなり近いともあらためて思った。
トムがHELLHAMMERからCELTIC FROSTという深遠な世界へと移行するのに、
ギーガーからの触発が大きかったと勝手に想像もした。
風貌からして明らかにトムのバンドのファンが、
ギーガーの展覧会やサイン会に多数駆けつけているシーンも映し出されている。
ほんとCELTIC FROSTやTRIPTYKONのファンの方も観て後悔することはない。

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談話で進める映画ながらドキュメンタリー映画が陥る説明的な作りとは一線を画しているところも重要。
ギーガーの作品のように、
緑と黒の薄いブレンドのような適度に色あせても見える映像そのものの力も大きい。
終始落ち着いた流れで、
クールに見えて感情が静かに横溢しているギーガーの作品そのものの映画だ。
とある人がギーガーの作品を評した“人間と機械の融合の奇怪な造形”という言葉にならえば、
血と肉と金属がブレンドした匂いが漂ってきて身が引き締まる空気感に覆われている。
映画も音楽もカタチだけじゃなく匂いと空気感が大切だとあらためて思わされる。
映像にピッタリのブラック・メタル系のアンビエント・ミュージックが適宜挿入され、
適度な緊張感を保ちながらリラックスさせるのに一役買っている。

残念ながらギーガーは、
撮影が終わって映画のポスト・プロダクションの最中の2014年5月12日に74才で亡くなっている。
ほんと死期を悟っていたかのような形相で映し出されており、
だからこそ凄みを感じさせる。
と同時に歩くのに脚もおぼつかずトークも“ドゥーム・メタルのテンポ”ながら、
たいへんオチャメでもある。

99分の時間があっというま。
観るべし。

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★映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』
2014年/99分/スイス/カラー/デジタル/5.1ch
9/2(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷|9/9(土)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
© 2015 T&C Film © 2015 FRENETIC FILMS.
http://gigerdarkstar.com/


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プロフィール

行川和彦

Author:行川和彦
                                             Hard as a Rockを座右の銘とする、
音楽文士&パンクの弁護人。

『パンク・ロック/ハードコア・ディスク・ガイド 1975-2003』(2004年~監修本)
『パンク・ロック/ハードコア史』(2007年)
『パンク・ロック/ハードコアの名盤100』(2010年)
を発表<いずれもリットーミュージック刊>。

ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、CDジャーナル、プレイヤー、ギター・マガジン、ベース・マガジン、クロスビート、EL ZINEなどで執筆中。
                                

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